「2時間・20回」に届かなくても――手湿疹と時間・回数・手袋の数字
時間と手袋――職業ごとの平均時間を割り当てた解析では、勤務中に手が濡れている時間が女性39分・男性77分、手袋の時間が女性27分・男性55分のところで、手湿疹のオッズ比が2と推定された。いずれも個人の閾値ではなく、手袋の関連は男性で一貫しない。
回数――1日8〜10回以上手を洗う人は、それより少ない人に比べて手湿疹のリスクが高い傾向がある(確実性は低い)。負荷を減らすとは手指衛生を省くことではなく、汚れていない場面の石けん手洗いをアルコール手指消毒に置き換えることである。
回復――洗う間隔を直接比べた研究は見当たらず、何時間あければ足りるかは分かっていない。
[1][2][8]
はじめに
手湿疹(hand eczema)の患者さんに「1日に何回くらい手を洗いますか」と尋ねると、「そんなに多くないです、10回くらいでしょうか」という答えが返ってくることがあります。職業性の手湿疹の文脈でよく目にする「1日20回」という数字を思い浮かべると、それほど多くないように聞こえるかもしれません。
では、20回に届かなければ手への負荷は小さいと考えてよいのでしょうか。手が濡れている時間が2時間に届かなければ、水仕事の影響は考えなくてよいのでしょうか。
職業集団を対象とした観察研究では、「2時間・20回」を下回る水準でも手湿疹との関連が報告されています。本稿では、手が濡れている時間、手洗いの回数、手袋をつけている時間の3つについて、どのくらいの水準で関連がみられるかを数字で確認します。あわせて、洗う間隔――皮膚が回復する時間――について何が分かっていて何が分かっていないかを整理し、最後に問診と指導への落とし込みを考えます。
湿潤作業という考え方
手湿疹は複数の要因が重なりうる疾患ですが、水や洗浄剤による角層バリアの障害が積み重なって起こる刺激性接触皮膚炎(irritant contact dermatitis)は、その代表的な病型です。職業皮膚科学の分野では、この負荷を**湿潤作業(wet work)**という言葉でまとめてきました。
Lund らが広く受け入れられているものとして紹介する定義は、勤務日に2時間以上手が濡れている、勤務日に20回以上手を洗う、液体を通さない手袋を勤務日に2時間以上つける、のいずれかに当てはまることです[1]。Loh らのメタ解析(45研究)のうち、湿潤作業の有無を比べた7研究をまとめると、湿潤作業は手湿疹のリスク上昇と関連し、相対リスク(relative risk: RR)は1.37でした(エビデンスの確実性は低い)[2]。
ただし、この「2時間・20回」は、手湿疹が急に増える境目として用量反応のデータから導かれた数字ではありません。Lund らは、自らのデータをもとに、この定義は見直しが必要かもしれないと述べています[1]。以下で、その根拠となった数字を順に見ていきます。
どのくらいの水準で関連がみられるか
ここで紹介する数字の多くは、職業集団を対象にした観察研究から得られたものです。個々の患者さんのリスクをそのまま示すものではなく、どのあたりから負荷を意識するかの目安として読んでください。
手が濡れている時間
手が濡れている時間と手湿疹の関係を最もまとまった形で示したのは、デンマークの Lund らの研究です[1]。パッチテストを受けた患者さんの全国データベースから、手湿疹と診断された11,706人(症例群)と、比較の対照として顔面湿疹(facial eczema)と診断された5,499人(対照群)を選び、両群の職業に伴う水仕事の量を比べました。手が濡れている時間は本人に尋ねたのではなく、全国の労働者調査の回答から職業ごとの平均値を求めて割り当てています。対象は勤務中の時間だけで、家事などの時間は含みません。
職業を「勤務日に2時間以上手が濡れている人の割合」で4つに分けると、その割合が25%以下の職業に比べて、25〜50%の職業では調整オッズ比(odds ratio: OR) 1.44、50〜75%で2.27、75%を超える職業で2.97と、段階的に上がりました。
より具体的なのは、勤務日の平均時間を連続量として扱った解析です。**手湿疹の OR は、手が濡れている時間が女性で39分、男性で77分のところで2倍と推定されました。**2時間では、女性で3.49、男性で2.41でした。著者らは、平均30分以下の湿潤作業でも有意なリスクがみられたとしています[1]。
この研究には限界もあります。曝露は職業ごとの平均値で、同じ職業のなかの個人差は反映されません。対照は健常者ではなく顔面湿疹の患者さんで、手湿疹が起きた時期と曝露の前後関係も分かりません。それでも、「2時間に満たなければ湿潤作業としては軽い」という読み方は、このデータからは支持されないといえます。
手洗いの回数
回数については、先の Loh らのメタ解析が参考になります。1日8〜10回以上手を洗う人は、それより少ない人に比べて手湿疹のリスクが高く(RR 1.51)、15〜20回以上を区切りにした比較でもリスクは高くなっていました(RR 1.66)。どちらも観察研究をまとめたもので、**エビデンスの確実性は「低い」**と評価されています[2]。また、この解析は区切りの上と下を比べたもので、回数の区切り方も研究ごとに異なるため、「8回」がリスクの境目という意味でも、それより少なければ安全という意味でもありません。
国内のデータとしては、2002年に1つの大学病院で女性看護師305人が自己記入式の質問票に答えた Smith らの調査があります[3]。質問票の基準で手湿疹に当てはまった人は35%で、1勤務あたり15回を超えて手を洗う群では、手湿疹の OR が2.0でした。回数を連続量として扱うと、リスクは回数に比例して上がっていました[3]。なお、この15回は回答者の中央値で2群に分けた値で、閾値として設定されたものではありません。
冒頭の「10回くらいです」という答えも、これらのデータに照らすと、少ない側とは言い切れない範囲にあります。
手袋をつけている時間
手袋の扱いは少し複雑です。同じ Lund らの研究で、液体を通さない手袋をつけている時間についても解析したところ、OR は女性で27分、男性で55分のところで2倍と推定されました。一方、男性では手袋を長くつける職業ほど関連がはっきりしない結果も出ており、著者らは設問の受け取られ方の違いなどを可能性として挙げています[1]。
手袋の閉塞そのものがどの程度皮膚を傷めるかについては、健常者のボランティアを対象にした Fartasch らの実験があります[5]。1日に一定時間ずつ7日間、水にさらす部位と手袋素材で閉塞する部位を作ったところ、1日3時間を超える水曝露では経表皮水分蒸散量(transepidermal water loss: TEWL)が有意に上がった一方、閉塞だけでは測定できる変化はありませんでした。ただし、その後に界面活性剤のラウリル硫酸ナトリウム(sodium lauryl sulfate: SLS)で刺激すると、水にさらした部位も閉塞した部位も、対照より強い反応を示しました。著者らは、同じ時間であれば短い閉塞は水曝露より皮膚への害が小さいとまとめています[5]。
この結果からは、手袋は水や洗浄剤から手を守る手段である一方で、閉塞のあとの皮膚は次の刺激に弱くなっている可能性がある、と考えられます。ただし、これは健常者に一定時間の閉塞を7日間繰り返した実験モデルで、実際の職場での長期の着用や手湿疹の患者さんを直接評価したものではない点には注意が必要です。
数字をどう読むか
ここまでの数字を並べると、次のようになります。
| 指標 | 報告された主な推定値 | 対象 | 注意 |
|---|---|---|---|
| 手が濡れている時間 | 女性39分・男性77分でOR 2倍、2時間でOR 女性3.49・男性2.41 | デンマークの手湿疹例と顔面湿疹例(対照) | 職業ごとの勤務中の平均時間で、個人の時間ではない |
| 手洗いの回数 | 1日8〜10回以上でRR 1.51、15〜20回以上で1.66 | 45研究を含むメタ解析 | 区切りの上下の比較。確実性は低い |
| 手洗いの回数(国内) | 1勤務15回超でOR 2.0 | 国内の女性看護師305人 | 1勤務あたり。中央値での区切り |
| 手袋をつけている時間 | 女性27分・男性55分でOR 2倍 | デンマークの手湿疹例と顔面湿疹例(対照) | 男性では結果が一定しない |
注:いずれも「この値を下回れば安全」という閾値ではない。手洗いの回数は研究により「1日あたり」と「1勤務あたり」が混在する。[1][2][3]
時間と手袋は同じ研究[1]が、回数は別の研究[2][3]が測っており、指標も対象も異なります。それでも、どの指標でも、よく知られた「2時間・20回」より少ない水準ですでに関連がみられるという点が共通しています。
逆向きのデータもあります。湿潤作業による職業性手湿疹と認定された954人を4〜5年後に追跡した Carøe らの研究では、職場で手が濡れている時間が短い人ほど、また手洗いの回数が少ない人ほど、手湿疹が治癒・改善していました。著者らは、わずかな曝露の変化でも治癒や改善と関連していたとしています[4]。観察研究のため因果の向きまでは言えませんが、職業を変えられない患者さんでも、置き換えや手袋の使い方で負荷を少しずつ減らす方向の指導には意味があると考えられます。
もう一つ、問診で数字を聞くときの注意があります。Lund らは、自己申告では湿潤作業の時間が長めに見積もられやすいことを、自らの研究を含む複数の報告を引いて指摘し、実際にはさらに短い時間からリスクが上がっている可能性にも触れています[1]。
回復の時間について分かっていること、いないこと
ここまでは「どれだけ濡れたか」「何回洗ったか」という負荷の量の話でした。では、洗ったあとに皮膚が戻る時間、つまり手洗いの間隔は、手湿疹と関係するのでしょうか。
結論からいえば、間隔そのものを条件として比べた疫学研究や実験研究は、調べた範囲では見当たりませんでした。2005年の国際会議のまとめは、「短い濡れと乾燥を何度も繰り返す湿潤作業」と「長時間手が濡れている作業」のどちらがより問題かを、今後の研究課題として挙げています[8]。
一方で、間接的な手がかりはいくつかあります。
- スイスの金属工の見習い201人を2.5年追跡した研究では、多変量解析の結果から、皮膚の回復時間の不足が累積的な刺激に関わる可能性が示唆された[7]。ただし、抄録には回復時間の定義も効果の大きさも示されておらず、具体的な間隔の目安には使えない
- 健常者の上腕に SLS を24時間閉塞貼付して急性の刺激性接触皮膚炎を起こした実験では、見た目や TEWL などの測定値は2週後まではすべてが戻らず、3週後に正常化した。刺激への反応性まで含めて完全に戻ったのは約4週後であった[6]
- 健常者の前腕で、2時間の休止をはさんで洗浄を2回繰り返した実験では、TEWL は2回目の洗浄でさらに上がった[9]
- 前述の実験では、水曝露や閉塞を受けた部位は、その後の刺激に対して強く反応した[5]
これらは、「一度傷んだ角層は、見た目が落ち着いてもしばらくは次の刺激に弱い」ことを示唆します。ただし、いずれも健常皮膚での実験か、回復時間の中身が確認できない観察研究です。とくに数週間という回復期間は、日常の手洗いよりはるかに強い実験刺激のモデルで得られたもので、手洗い1回ごとにそれだけの時間が必要という意味ではありません。何時間あければ次の手洗いに備えられるのかを示す数字はありません。
ここから先は、複数の報告から組み立てた提案です。負荷の量(時間と回数)が同じでも、回復の余地――勤務中の休憩、夜間、休日――が乏しい人ほど、バリア障害が積み重なりやすい可能性があります。問診で「どれだけ洗うか」に加えて「手が乾いて休める時間がどれくらいあるか」を聞いておくことは、指導の優先順位を考える材料になるかもしれません。
問診と指導に落とし込む
以下は、ここまでのデータを外来での問診と指導に移したものです。ここで挙げる項目は、手湿疹の原因をすべて洗い出すものではなく、刺激性の負荷を見積もるための最小限の目安です。
問診で聞くこと
手が濡れている時間、手洗いの回数、手袋をつけている時間は、それぞれ別の指標として手湿疹との関連が報告されています[1][2]。そのため、「水仕事は多いですか」とまとめて聞くのではなく、3つを別々に数字で聞くのが実用的と考えられます。
時間や回数は、「出勤してから帰るまでに手が濡れる場面、手を洗う場面」を一つずつ挙げてもらうと、聞き漏らしが減るでしょう。これは研究で検証された聞き方ではなく、筆者の提案です。また、前述の39分・77分という数字も、職業ごとの平均値から得られたもので、患者さん一人ひとりの申告時間と突き合わせて線を引くための基準ではありません。仕事だけでなく、家事や育児での水仕事も忘れずに尋ねます。
もう一つ、刺激性接触皮膚炎だけを前提にしないことも大切です。ドイツの手湿疹ガイドラインは、手湿疹が3か月を超えて続く場合、適切な治療に反応しない場合、または接触アレルギーが疑われる場合には、パッチテストを行うとしています[11]。湿潤作業の負荷が大きい患者さんでも、アレルギー性接触皮膚炎(allergic contact dermatitis)やアトピー性皮膚炎(atopic dermatitis)が重なっている可能性は残ります。
手指衛生を保ったまま負荷を置き換える
指導の目標は、手指衛生の水準を下げることではなく、同じ衛生を皮膚への負荷の小さい方法で保つことです。欧州接触皮膚炎学会(European Society of Contact Dermatitis)のガイドラインは、予防策として次のような項目を挙げています[10]。
- 目に見える汚れがなければ、石けんでの手洗いをアルコール手指消毒に置き換える
- 手袋は必要な場面で使い、そのうえで着用はできるだけ短くする
- 手袋を10分を超えてつけるときは、下に綿の手袋をはめる
- 保湿剤は勤務中にも塗り、とくに仕事の後と就寝前に塗る
ここでの「手袋を短く」は、感染対策や化学物質から身を守るために必要な手袋を省くという意味ではありません。長く着けざるをえない場面で、閉塞の負担を軽くする工夫として読むのがよいでしょう。同様に、目に見える汚れがある場合や、施設の感染対策で石けんと流水による手洗いが指定されている場面では、置き換えません。
アルコール手指消毒については、Loh らのメタ解析で手湿疹との有意な関連はみられていませんが、この結果はエビデンスの確実性が「非常に低い」と評価されています。Loh らが紹介する前向き研究では、濡れた皮膚へのアルコール手指消毒の使用と、追跡時の手湿疹との関連が報告されており(観察研究)[2]、手がよく乾いた状態で使うことも合わせて伝えるとよいでしょう。すでに荒れた皮膚ではアルコールがしみることもあるため、置き換えを勧める際には保湿とあわせて説明します。
保湿剤の予防効果については、手湿疹のない労働者を対象にしたコクランレビューで、保湿剤を使った群の13%、使わなかった群の19%に手湿疹の徴候が出たと報告されています(RR 0.71, 95%信頼区間 0.46–1.09)[12]。効果が示唆されるものの、エビデンスの質は低く、統計的には確実とはいえません[12]。効果の推定は不確かですが、ガイドラインでは保湿剤の使用が勧められています。患者さんの使用感や接触アレルギーの可能性にも配慮しながら、塗る時間帯まで具体的に伝えることを検討します。
確認したいポイント
ここまでの内容を踏まえ、手湿疹の患者さんの負荷を見積もる際の項目を並べます。
- 時間: 勤務中に手が濡れている時間。2時間に満たなくても軽いとはいえない
- 回数: 1日に手を洗う回数。10回前後でも少ない側とは限らない。手指衛生そのものは減らさない
- 手袋: 液体を通さない手袋の時間。10分を超えるなら綿手袋を下に
- 家庭: 家事や育児での水仕事と、そこでの手袋の使用
- 回復: 勤務中の休憩、夜間、休日に手を乾かして休める時間があるか(根拠は間接的)
- 置き換え: 汚れていない場面の手洗いを、乾いた手へのアルコール手指消毒に置き換えられるか
- 保湿: 勤務中、仕事の後、就寝前に塗れているか
- 他の原因: 3か月を超える・治療に反応しない・接触アレルギーを疑うときのパッチテスト、アトピー性皮膚炎の既往
これらは、それぞれが「どこから負荷を減らせるか」を探すための入口として機能します。
おわりに
「1日20回」「2時間」という数字は、湿潤作業を定義するうえで今も広く使われています。しかし、それより少ない水準でも手湿疹との関連を報告した観察研究があり、1時間に満たない水仕事や10回前後の手洗いも、負荷の一部として意識しておく必要がありそうです。そのうえで、負荷を減らす手段は手指衛生を省くことではなく、置き換えることにあります。
手湿疹の患者さんの話を聞くとき、濡れている時間、回数、手袋の時間、そして手が休める時間を別々に尋ねてみると、指導の手がかりが見つかりやすくなるのではないでしょうか。
ここまでお読みいただきありがとうございます。この記事が皆様の今後のお役に立てれば幸いです。それでは。
余白ノート
この記事は、「手湿疹は洗った回数ではなく、洗った後に戻る時間で決まるのではないか」という問いから出発しました。ところが調べてみると、手洗いの間隔そのものを比べた研究は見つかりませんでした。2005年の国際会議で「短く何度も濡れる」のと「長く一度濡れる」のとどちらが問題かが研究課題として挙げられていたのですが[8]、この問いは今も開いたままのようです。
看護師の手のように、1回1回は短くても何十回も濡れては乾く手と、調理場で長く水に浸かる手とでは、同じ「湿潤作業」でも皮膚に起きていることは違うのかもしれません。回数と時間という二つの物差しがそれぞれ別の研究で使われ続けているのも、その違いをまだ一つの尺度で測りきれていないことの表れなのではないでしょうか。
参考文献
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