定期接種時代の帯状疱疹ワクチン―2種類のワクチンを整理する―
帯状疱疹の予防には2種類のワクチン、すなわち生ワクチン(ビケン)と組換えワクチン(シングリックス)がある。両者は予防効果・接種方法・適応などが異なる。臨床の場で覚えておきたい要点は次の三つである。
① 5年時点での予防効果は、生ワクチンでは4割程度、組換えワクチンでは9割程度。
② 免疫抑制状態の患者さんには生ワクチンは禁忌である。組換えワクチンであれば接種可能な場合がある。
③ 2025年度から定期接種の対象は65歳の節目に置かれ、2025〜2029年度は5歳刻みの経過措置対象者がいる。[1][2][3][4]
はじめに
外来で患者さんから「テレビで帯状疱疹のワクチンの話をしていた。打ったほうがよいでしょうか」と尋ねられる場面が、ここ数年で急に増えたのではないでしょうか。2025年度から帯状疱疹ワクチンが定期接種(B類疾病)の対象となり、地域によっては助成制度の案内も届きはじめています。患者さんの関心は高まる一方で、「2種類のうちどちらを薦めるか」「いつ打つべきか」「打ってはいけない人は誰か」といった問いへの準備が必要になりました。
本稿では日本皮膚科学会「帯状疱疹診療ガイドライン2025」[1]と、厚生労働省の定期接種の案内[2]、両ワクチンの添付文書[3][4]を手がかりに、皮膚科外来で押さえておきたい論点を整理します。
背景知識――なぜいま帯状疱疹ワクチンなのか
帯状疱疹は、水痘・帯状疱疹ウイルス(varicella zoster virus: VZV)に対する細胞性免疫が加齢などで低下した際にウイルスが再活性化することで発症します。50歳を過ぎると発症率が上昇し、80歳までに約30%の人が経験すると推定されています[1]。さらに、加齢とともに帯状疱疹後神経痛(postherpetic neuralgia: PHN)の発症率も上がるため、欧米および日本において50歳以上が帯状疱疹ワクチンの対象年齢として位置づけられてきました[1]。
国内では2016年に水痘生ワクチンの製造販売承認が「50歳以上の者に対する帯状疱疹予防」目的で一部変更承認され、続いて2020年1月に組換えワクチン(シングリックス)の販売が開始されました[1]。2023年6月からは組換えワクチンの適応が「帯状疱疹の発症リスクが高いと考えられる18歳以上」にも拡大されています[1]。そして2025年度、ついに定期接種化が実現しました[2]。
定期接種制度――2025年度からの定期接種の枠組み
厚生労働省の案内[2]によれば、定期接種の対象者は次のとおりです。
- 1. 65歳を迎える方
- 2. 60〜64歳で、HIVによる免疫機能障害により日常生活がほぼ不可能な方
- 3. 経過措置(2025〜2029年度):その年度内に70歳、75歳、80歳、85歳、90歳、95歳、100歳となる方(100歳以上は2025年度のみ全員が対象)
つまり節目は65歳に置かれ、当面の5年間は5歳刻みの「キャッチアップ」が走るかたちです。これは、すでに65歳を超えてしまった世代を取りこぼさないための設計といえます。臨床現場では患者さんの年齢を見て、その年度の対象に含まれるかを確認する場面が増えるでしょう。
接種スケジュールはワクチン種により異なります[2]。
- 生ワクチン:皮下に1回接種。
- 組換えワクチン:2か月以上の間隔をあけて2回、筋肉内に接種。免疫機能が低下している方など、医師の判断により1か月まで短縮可能。
接種費用や実施医療機関は自治体ごとに異なるため、「お住まいの市町村(保健所・保健センター)、医師会、医療機関、かかりつけ医等に問い合わせていただくようお願いします」と案内されています[2]。自治体ごとの一部自己負担額を確認するよう患者さんに伝えるのが安全です。
2種類の帯状疱疹ワクチン――何が違うのか
ここからが本題です。生ワクチンと組換えワクチンは、由来から接種方法、効果、副反応、そして「打てない人」の範囲まで、いずれも対照的です。まずは一覧表で全体像を把握したうえで、それぞれ確認していきましょう。
| 比較項目 | 生ワクチン(ビケン) | 組換えワクチン(シングリックス) |
|---|---|---|
| 種類 | 生ワクチン | 組換えサブユニットワクチン |
| 接種回数・経路 | 0.5 mLを1回皮下注射 | 0.5 mLを2回筋肉内注射(通常2か月間隔。リスク高い18歳以上は1〜2か月間隔) |
| 帯状疱疹予防効果 | 5年時点で4割程度 | 5年時点で9割程度、10年時点で7割程度 |
| 免疫抑制患者への接種 | 禁忌 | 接種可能な場合あり |
| 妊婦 | 禁忌 | 有益性が危険性を上回る場合にのみ接種 |
[1][2][3][4]
生ワクチン
生ワクチンは長期にわたる安全性の蓄積があります[1]。一方で、生ワクチンであるがゆえに、帯状疱疹発症リスクが高い患者さんほど打てないというジレンマを抱えます。ガイドラインは禁忌の例として、妊婦、非寛解状態の血液がん患者、造血幹細胞移植後、固形がんで3か月以内に化学療法を受けた患者、免疫抑制療法施行中、HIV患者などを挙げています[1]。
帯状疱疹予防目的での接種不適当者として,明らかに免疫機能に異常のある疾患を有する者及び免疫抑制をきたす治療を受けている者などが挙げられており,帯状疱疹発症リスクの高い患者に接種できないという現状がある[1]。
また、効果の持続に関しても、接種後8年で帯状疱疹発症予防効果が、10年で疾病負荷に対する効果が、それぞれ統計学的に有意でなくなることが長期追跡で示されています[1]。サブ解析では60歳代に接種したほうが、70歳以上で接種するよりもワクチン効果が高い傾向があることも報告されており[1]、「打つなら早めに」が一つの目安になります。
組換えワクチン
組換えワクチンはVZVの糖タンパクgEに強力なアジュバントAS01Bを組み合わせたサブユニットワクチンで、生ワクチンではない不活化ワクチンです[3]。第III相試験(ZOE-50)では50歳以上の健常人で発症阻止効果97.2%、追加試験を合わせた70歳以上のプール解析でも91.3%、PHN予防効果88.8%と、生ワクチンを大きく上回る成績が示されました[1]。長期追跡でも接種後8年目で84%、10年目で73.2%の有効率が維持されています[1]。
平均3.2年間の観察期間中,ワクチンによる帯状疱疹発症阻止効果は97.2%と驚くべき結果が得られた[1]。
ガイドラインの解説でも「驚くべき」と表現されるほどの結果です。さらに、自家造血幹細胞移植患者を対象とした臨床試験では約2年間の観察で予防効果が68.2%、腎移植患者でも免疫原性が確認されており[1]、免疫抑制状態にある患者さんにも接種可能であることが、生ワクチンとの最大の違いとなります。
ただし、その効果は副反応の発現と引き換えでもあります。注射部位疼痛が約8割にみられ[1]、筋肉痛・疲労・頭痛などの全身性副反応も生ワクチンに比べて頻度が高い傾向があります[1]。重大な副反応としてはアナフィラキシーに加え、ギラン・バレー症候群が記載されている点にも注意が必要です[3]。
適応上の注意
両ワクチンに共通する留意点と、それぞれに固有の注意点を整理します。
生ワクチン特有の注意点
生ワクチンの禁忌は、添付文書では次のように規定されています[4]。
- 1. 明らかな発熱を呈している者
- 2. 重篤な急性疾患にかかっていることが明らかな者
- 3. 本剤の成分によってアナフィラキシーを起こしたことが明らかな者
- 4. 妊娠していることが明らかな者
- 5. 帯状疱疹予防においては、明らかに免疫機能に異常のある疾患を有する者及び免疫抑制をきたす治療を受けている者
加えて、輸血後は3か月以上、大量ガンマグロブリン療法後は6か月以上の間隔を空けてから接種する必要があります[2]。免疫抑制薬・生物学的製剤の使用が広がるなかで、関連各科との連携が欠かせません。「皮膚科で生ワクチンを打ち、内科で生物学的製剤が再開される」といった情報共有の不備が思わぬ事故を生む可能性があるため、お薬手帳や紹介状の確認は丁寧に行いたいところです。
組換えワクチン特有の注意点
組換えワクチンは生ワクチン同様の絶対的な免疫学的禁忌は設けられていませんが、添付文書では次のような接種要注意者(慎重投与)が示されています[3]。
- 心臓血管系・腎臓・肝臓・血液疾患、発育障害等のある者
- 過去の予防接種で接種後2日以内に発熱・発疹・蕁麻疹等のアレルギーを疑う症状を呈した者
- 過去にけいれんの既往のある者
- 免疫不全の診断がなされている者及び近親者に先天性免疫不全症の者がいる者
- 血小板減少症や凝固障害を有する者(筋肉内注射のため出血傾向に注意)
接種経路は筋肉内注射のみで、皮下・静脈内・皮内注射は認められていません[3]。また、調製後は2〜8℃で6時間以内に使用すること、外箱開封後は遮光保存とすることなど、取り扱い上の規定も生ワクチンと異なります[3]。
おわりに
帯状疱疹ワクチンは、定期接種化により「打つかどうか」の議論から「誰に、どちらを、いつ」をどう設計するかの議論へと、関心の重心が移りつつあります。予防効果の高さ、投与方法、適応など二つのワクチンには異なる特徴があり、そのいずれを選ぶかは、患者さん一人ひとりの年齢、免疫状態、併用薬、副反応の許容度、そして経済的事情などによって変わります。
日々の外来で「この患者さんにとっての最適解は何か」を考えるたびに、定期接種という制度の枠組みと、ワクチン2種それぞれの個性をすばやく頭の中で照合する作業が求められます。患者さんから「どうしたらいいでしょう」と相談されたときに、根拠とともに二つの選択肢を評価できる医師であることが、定期接種時代の皮膚科医に求められる姿勢ではないでしょうか。
ここまでお読みいただきありがとうございます。この記事が皆様の今後のお役に立てれば幸いです。それでは。
余白ノート
外来診察中に、定期接種の通知が届いたがワクチンを打つべきか?との質問をいただくことがたまにあります。特に帯状疱疹の患者さんのご家族は、家族が帯状疱疹になったということの衝撃もあり聞きたくなるのでしょう。そんな時に、ワクチンの特徴について確認できたら便利だと考えて今回の記事にしました。すべての質問に完璧な回答ができるわけではありませんが、さらりと答えられることが多ければ信頼関係の構築においても、自分の精神衛生の管理においても好ましいのではないかと思っています。
参考文献
- 浅田秀夫,今福信一,渡辺大輔,ほか(帯状疱疹診療ガイドライン策定委員会):帯状疱疹診療ガイドライン2025.日皮会誌 2025; 135(3): 527-556. https://www.dermatol.or.jp/dermatol/wp-content/uploads/xoops/files/guideline/Taijouhoushin2025.pdf
- 厚生労働省:帯状疱疹ワクチン.https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/yobou-sesshu/vaccine/shingles/index.html
- 独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA):シングリックス筋注用 電子添文(2025年10月改訂 第5版).https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/340278_631341BE1028_2_08
- 独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA):乾燥弱毒生水痘ワクチン「ビケン」電子添文(2025年12月1日改訂).https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/rdDetail/iyaku/631340ED1022_1?user=1
