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多汗症は部位で治療戦略が変わる――手掌・腋窩・足底・頭部顔面をどう診るか

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診断――まず原発性局所多汗症と続発性多汗症を分け、HDSSで生活障害の程度を確認する。
部位――手掌・腋窩・足底・頭部顔面では、病態と治療の組み立て方が異なる。
治療――保険適用の有無だけでなく、侵襲性、継続性、患者さんの生活目標を合わせて考える。


はじめに

多汗症の症例を外来やカンファレンスで検討していると、「腋窩なら外用抗コリン薬から」「手掌ならイオントフォレーシスも考える」と、部位ごとに治療の話が分かれていく場面があります。

汗を減らす、という目的だけを見ると、ひとつの疾患群として一括りにしたくなります。しかし原発性局所多汗症(primary focal hyperhidrosis)では、発汗部位によって病態の背景、生活への支障、治療選択肢の順序が変わります。ここを押さえておくと、多汗症診療は「汗を止める治療の一覧」ではなく、部位別に組み立てる診療として見えやすくなります。

代表的には、原発性手掌多汗症(primary palmar hyperhidrosis)、原発性腋窩多汗症(primary axillary hyperhidrosis)、原発性足底多汗症(primary plantar hyperhidrosis)、原発性頭部顔面多汗症(primary craniofacial hyperhidrosis)を分けて考える必要があります。

本邦の調査では、原発性局所多汗症は決してまれではない一方で、医療機関への受診経験率や受診継続率は低いことが示されています[1][4]。つまり、多汗症は「困っている人は多いが、診療に届きにくい」疾患といえます。

本稿では、2023年改訂版の原発性局所多汗症診療ガイドラインを軸に、手掌・腋窩・足底・頭部顔面で治療戦略がどのように変わるのかを整理します。


診断の出発点

多汗症(hyperhidrosis)を診るとき、最初に意識したいことは、汗の量そのものを測ることではなく、原発性か続発性かを分けることです。

ガイドラインでは、多汗症を全身性と局所性に分け、さらにそれぞれを原発性と続発性に分類しています。続発性多汗症(secondary hyperhidrosis)では、薬剤性、感染症、悪性腫瘍、内分泌・代謝疾患、神経疾患、Frey症候群(Frey syndrome)などを考えます[1]。

原発性局所多汗症では、明らかな原因がない局所的な過剰発汗が6か月以上続き、発症年齢、左右対称性、睡眠中の停止、頻度、家族歴、日常生活への支障などを確認します。この診断基準はHornbergerらの報告を基礎として、ガイドラインでも採用されています[1][2]。

重症度はHyperhidrosis disease severity scale(HDSS)で整理すると、外来で共有しやすくなります。HDSS 3は日常生活に頻繁な支障がある状態、HDSS 4は常に支障がある状態に相当し、3と4が重症の目安です[1][3]。

ここで大切なのは、HDSSが発汗量だけの尺度ではないことです。多汗症診療では、汗をゼロにすることではなく、患者さんが困っている生活場面を改善することが治療目標になります。


部位別に病態をおさらいする

原発性局所多汗症では、同じ「汗が多い」という訴えでも、部位によって生理的意義と誘発因子が異なります。

部位発汗の特徴診療上の意味
手掌精神的負荷や触刺激で誘発されやすい書字、電子機器操作、握手など社会生活への影響が大きい
腋窩温熱性発汗と精神性発汗が重なる外用抗コリン薬やBT-Aなど、保険適用治療を軸に組み立てやすい
足底手掌と同様に精神性発汗の要素がある浸軟、臭気、感染症を含めた生活上の不快感に注意する
頭部・顔面温熱、精神的負荷、味覚刺激で誘発される治療選択肢はいずれも慎重な位置づけになりやすい

本表の根拠:[1]

この表を縦に見ると、多汗症は部位ごとに生活障害の現れ方が異なります。手掌では対人動作や作業が、腋窩では衣服や整容面が、足底では靴内環境や皮膚トラブルが、頭部・顔面では人前での見た目や社会的緊張が問題になりやすいでしょう。

一方で横に見ると、診療上の共通点もあります。いずれの部位でも、単に発汗量を減らすだけでなく、どの生活場面で困っているかを具体化することが治療選択の出発点になります。


治療は部位ごとに組み立てる

2023年改訂版ガイドラインの特徴は、治療を部位別アルゴリズムとして整理している点にあります。保険適用の有無、推奨度、侵襲性、費用負担、継続しやすさが重なっており、単純な強弱だけでは読めません[1]。

部位前面に出る治療次に検討する治療注意点
腋窩外用抗コリン薬、塩化アルミニウム外用重症例でA型ボツリヌス毒素、機器治療、ETS保険適用治療が比較的組み立てやすい
手掌水道水イオントフォレーシス、塩化アルミニウム外用/ODTBT-A、内服、神経ブロック、ETSETSではCHの説明が重要
足底水道水イオントフォレーシス、塩化アルミニウム外用/ODTBT-A、内服、心理療法皮膚浸軟や感染症への配慮を加える
頭部・顔面塩化アルミニウム外用、内服BT-A、神経ブロック、ETSいずれも慎重な説明が必要

本表の根拠:[1][6]

この表を縦に見ると、推奨度Bの治療が複数ある部位と、C1の選択肢が中心となる部位があることが分かります。しかし横に見ると、いずれの部位でも「低侵襲で継続可能な治療から始め、効果不十分例で次の選択肢を検討する」という流れに収束します。

なお、保険適用や電子添文の記載は改訂される可能性があります。本稿は2023年改訂版ガイドラインの読み解きを目的としており、実際の処方前には最新の電子添文と保険適用を確認してください。

腋窩

腋窩では、外用抗コリン薬(topical anticholinergic agents)と塩化アルミニウム(aluminum chloride)外用が治療の前面に出ます。

2023年版ガイドラインでは、原発性腋窩多汗症において保険適用の外用抗コリン薬による治療は推奨度Bとされています[1]。国内第3相試験では、5%ソフピロニウム臭化物(sofpironium bromide)ゲルの有効性と安全性が検討されており、腋窩多汗症に対する外用抗コリン薬の位置づけを支えるデータのひとつです[6]。

腋窩多汗症では、衣服や衛生用品、仕事・学業への影響が問題になりやすく、本邦の疾病負荷研究でも労働生産性や衛生用品費への影響が示されています[5]。

重度の腋窩多汗症では、A型ボツリヌス毒素(botulinum toxin type A: BT-A)局注も重要な選択肢です。ガイドラインでは、重度の原発性腋窩多汗症に対してBT-A局注は推奨度Bとされます[1]。

一方で、マイクロ波などの機器治療や胸部交感神経遮断術(endoscopic thoracic sympathectomy: ETS)は、より慎重に位置づけられます。特にETSは、効果だけでなく代償性発汗(compensatory hyperhidrosis: CH)を含めた説明が必要です。

腋窩多汗症では、「外用から始め、重症度や生活障害に応じてBT-Aや他の治療を検討する」という段階性を意識すると整理しやすいでしょう。

手掌

手掌では、水道水イオントフォレーシス(tap-water iontophoresis)と塩化アルミニウム外用が中心になります。

ガイドラインでは、水道水イオントフォレーシスは掌蹠多汗症に対して推奨度Bとされています[1]。手掌は書字、パソコン操作、スマートフォン操作、握手など、日常動作への影響が分かりやすい部位です。HDSSだけでなく、どの場面で困っているかを聞くことで治療目標が具体化します。

塩化アルミニウム外用では、単純外用だけでなく密封療法(occlusive dressing technique: ODT)を検討する場面があります。ただし刺激性接触皮膚炎(irritant contact dermatitis)には注意が必要です。濃度や基剤を含めて、効果と刺激性のバランスを見ることになります[1]。

手掌多汗症で最も説明が難しいのは、ETSの位置づけです。手掌多汗症に対するETSの有効性は高い一方で、CHが患者さんの満足度を下げる要因になります。ガイドラインでは、重症で保存的治療に抵抗性があり、生活の質を大きく損なう場合に条件付きで推奨されています[1]。

つまり手掌では、「効く治療がある」ことと、「どこまで侵襲的治療に進むか」は分けて考える必要があります。

足底

足底では、手掌と同様に水道水イオントフォレーシスと塩化アルミニウム外用/ODTが中心になります。

足底多汗症では、汗そのものの不快感に加え、靴内の蒸れ、皮膚の浸軟、足白癬(tinea pedis)や尋常性疣贅(verruca vulgaris)などの皮膚トラブルが問題になることがあります[1]。そのため、発汗量の評価だけでなく、足底の皮膚所見を確認することも大切です。

BT-Aは選択肢になりえますが、推奨度はC1であり、保険適用や疼痛、投与手技の問題を含めて検討します[1]。足底では「手掌と同じように考える」だけではなく、靴内環境や皮膚感染症の管理まで含めて治療計画を立てると実用的です。

頭部・顔面

頭部・顔面多汗症は、治療の組み立てが難しい部位です。

ガイドラインでは、塩化アルミニウム外用、内服療法、BT-A、神経ブロック、精神(心理)療法、ETSなどが挙げられますが、推奨度C1の選択肢が多くなります[1]。C1は、実施を考慮できるものの根拠は十分ではない、という位置づけです。

頭部・顔面では、汗が見た目として現れやすく、会議、診察、接客、発表などの場面で強い心理的負担になりえます。一方で、治療部位としては眼周囲や顔面神経、表情筋への影響を考える必要があり、腋窩や手掌と同じ感覚では進めにくい面があります。

ETSは、顔面多汗症に対して有効性が期待される一方で、T2領域の遮断が必要となり、CHへの十分なインフォームドコンセントが不可欠です[1]。頭部・顔面では、治療を急いで強めるというより、生活障害の具体的場面と治療リスクを丁寧に照合する姿勢が求められます。


保険適用と推奨度を分けて読む

多汗症治療では、保険適用、推奨度、患者さんの希望が必ずしも同じ方向を向くとは限りません。

たとえば腋窩では、外用抗コリン薬や重度例のBT-Aなど、保険適用の治療を軸に組み立てやすい領域です。一方、手掌や足底では水道水イオントフォレーシスが重要であり、塩化アルミニウム外用やODTも実臨床では使われます。頭部・顔面では、選択肢はあっても根拠や安全性の面で慎重な説明が必要になります[1]。

ここで避けたいのは、保険適用がある治療を機械的に第一選択とみなすことです。ガイドラインのアルゴリズムは、保険適用だけでなく、治療費、侵襲性、簡便さ、効果、部位ごとの適性を考慮して作られています[1]。

したがって実際の診療では、次の順で考えると整理しやすくなります。

  • 続発性を除外する: 薬剤、内分泌疾患、神経疾患、感染症などを検討する
  • 部位を確認する: 手掌、腋窩、足底、頭部・顔面を分ける
  • 重症度を確認する: HDSSと生活障害の具体的場面を確認する
  • 低侵襲治療から始める: 外用、イオントフォレーシスなどを部位に応じて選ぶ
  • 効果不十分例で次を考える: BT-A、内服、機器治療、神経ブロック、ETSを検討する
  • 事前に共有する副作用: 刺激性皮膚炎、抗コリン作用、疼痛、CHなどを確認する

この順序は、治療の強さを段階的に上げるためだけのものではありません。患者さんが「どの程度よくなれば生活しやすくなるのか」を共有するための枠組みでもあります。


開始前に確認したいポイント

ここまでの内容を踏まえると、多汗症診療では以下の5点を確認すると整理しやすくなります。

  • 続発性と原発性の鑑別: 薬剤、内分泌・代謝疾患、感染症、悪性腫瘍、神経疾患などを検討する
  • 発汗部位: 手掌、腋窩、足底、頭部・顔面を分け、生活障害の場面と結びつける
  • HDSS: 3または4であれば重症の目安とし、治療強化を検討する
  • 治療の継続性: 通院頻度、費用、疼痛、外用刺激、日常生活での続けやすさを確認する
  • 侵襲的治療の説明: BT-A、神経ブロック、機器治療、ETSでは効果だけでなく副作用やCHを共有する

これらはルーチンとして並べる項目ではなく、続発性の除外から部位別治療の選択までを一つの流れとして確認するための見取り図として機能します。


おわりに

多汗症診療では、汗の量だけに注目すると治療選択を誤りやすくなります。

同じ原発性局所多汗症でも、手掌、腋窩、足底、頭部・顔面では、困りごとの現れ方も、治療の組み立て方も異なります。部位を分けて考えることは、分類のためではなく、患者さんの生活に届く治療を選ぶための作業です。

多汗症は、皮膚科診療において「症状を減らすこと」と「生活を取り戻すこと」が必ずしも同じ言葉ではないことを教えてくれる疾患なのかもしれません。

ここまでお読みいただきありがとうございます。この記事が皆様の今後のお役に立てれば幸いです。それでは。


余白ノート

多汗症について調べる前は、汗を減らす治療を並べれば整理できると思っていました。しかしガイドラインを読むと、手掌、腋窩、足底、頭部・顔面で、整理の軸そのものが変わることに気づきます。

特に印象に残ったのは、治療ゴールが「常に汗を止めること」ではなく、患者さんの生活の中でQOLを改善することに置かれている点です。これは多汗症に限らず、症状の強さと生活上の困難がずれる疾患を診るときにも、繰り返し思い出したい視点ではないでしょうか。


参考文献

  1. 原発性局所多汗症診療ガイドライン策定委員会. 原発性局所多汗症診療ガイドライン 2023年改訂版. 日皮会誌. 2023;133(2):157-188.
  2. Hornberger J, Grimes K, Naumann M, et al. Recognition, diagnosis, and treatment of primary focal hyperhidrosis. J Am Acad Dermatol. 2004;51(2):274-286. doi:10.1016/j.jaad.2003.12.029
  3. Strutton DR, Kowalski JW, Glaser DA, Stang PE. US prevalence of hyperhidrosis and impact on individuals with axillary hyperhidrosis: results from a national survey. J Am Acad Dermatol. 2004;51(2):241-248. doi:10.1016/j.jaad.2003.12.040
  4. Fujimoto T, Inose Y, Nakamura H, Kikukawa Y. Questionnaire-based epidemiological survey of primary focal hyperhidrosis and survey on current medical management of primary axillary hyperhidrosis in Japan. Arch Dermatol Res. 2023;315(3):409-417. doi:10.1007/s00403-022-02365-9
  5. Murota H, Fujimoto T, Oshima Y, et al. Cost-of-illness study for axillary hyperhidrosis in Japan. J Dermatol. 2021;48(10):1482-1490. doi:10.1111/1346-8138.16050
  6. Yokozeki H, Fujimoto T, Abe Y, et al. A phase 3, multicenter, randomized, double-blind, vehicle-controlled, parallel-group study of 5% sofpironium bromide (BBI-4000) gel in Japanese patients with primary axillary hyperhidrosis. J Dermatol. 2021;48(3):279-288. doi:10.1111/1346-8138.15668
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