「まあまあです」のまま同じ処方を出さない――アトピー性皮膚炎の再診で問うこと
問う――ガイドライン2024の治療は、現にある炎症と痒みを速やかに抑える寛解導入を重視し、寛解導入できたかどうかで次の一手が分かれる形で組まれている。
見直す――寛解導入できないときは、薬を上げる前に、外用療法の適正化と、診断と重症度の再確認を行う。
共有する――治療の目標は患者さんと共有することが大切とされる。何で測り、どのような状態を目指すかまで決めておけば、再診のたびに同じ物差しで「できたか」を問える。
[1]
はじめに
アトピー性皮膚炎(atopic dermatitis)の再診で、「どうですか」と聞くと「まあまあです」と返ってくる。皮疹を見ると、良くなってはいるものの、まだ赤みが残っている。そのまま前回と同じ外用薬を処方して診察を終える。こうした場面に覚えのある専攻医は少なくないのではないでしょうか。
「まあまあ」が続くうちに、数か月が過ぎていることもあります。悪くなってはいないので、処方を変える理由も見つけにくい。けれども、患者さんが目指していた状態に届いているかと問われると、答えに詰まります。
日本皮膚科学会と日本アレルギー学会のアトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024は、治療の流れを「寛解導入」と「寛解維持」という言葉で組み立てています[1]。本稿では、このガイドラインの治療の流れを薬の一覧としてではなく、外来で毎回投げかける問いの形として読み直し、同じ処方を続けてしまう場面をどう変えられるかを整理します。
背景知識
治療のゴール
ガイドライン2024は、治療の最終目標(ゴール)を、症状がないか、あっても軽微で、日常生活に支障がなく、薬物療法もあまり必要としない状態に到達し、それを維持することとしています[1]。そこまで到達できない場合でも、急な悪化で日常生活が損なわれない状態を維持することを目標にするとしています[1]。
ここで目を留めたいのは、ゴールが「皮疹が少し良くなる」ではなく、「薬物療法もあまり必要としない状態」まで含んでいることです[1]。「まあまあ」という言葉と、同じ処方が続いていることだけでは、ゴールに届いたかどうかは判断できません。皮疹や痒み、生活への影響を確かめる必要があります。
治療の流れの形
ガイドライン2024の本文(3.2 治療方法)が述べる流れを、順に並べると次のようになります[1]。
-
- 診断と重症度評価: 診断基準に則って診断し、除外すべき疾患を鑑別したうえで、全体の重症度を評価する
- 患者教育: 疾患と治療の目標を患者さんと共有し、薬物療法やスキンケアを具体的に説明する
- 寛解導入: ステロイド外用薬、タクロリムス軟膏、デルゴシチニブ軟膏、ジファミラスト軟膏などで、現にある炎症と痒みを速やかに抑える
- 寛解導入できた場合: 寛解維持療法に移行し、治療の目標を目指す
- 寛解導入できない場合: 患者教育による外用療法の適正化を行い、診断と重症度を再確認する
- それでも寛解導入できない中等症以上の難治状態: シクロスポリン内服、生物学的製剤(デュピルマブ、ネモリズマブ、トラロキヌマブ)の皮下注射、ヤヌスキナーゼ(Janus kinase: JAK)阻害薬(バリシチニブ、ウパダシチニブ、アブロシチニブ)の内服、紫外線療法、心身医学的療法などの併用を検討する
注:6はガイドライン2024が挙げる治療の選択肢の整理であり、各薬剤の対象となる患者さんの条件は同じではありません。たとえばシクロスポリンは、既存治療で十分な効果が得られず、強い炎症を伴う皮疹が体表面積の30%以上に及ぶ患者さんが対象とされています[4]。ネモリズマブの効能は「既存治療で効果不十分なアトピー性皮膚炎に伴うそう痒」で、痒みが改善しても、アトピー性皮膚炎に必要な治療は続けることとされています[5]。使う前に各薬剤の電子添文で条件を確かめます。また、ここでの「併用」は外用療法に加えるという意味で読むのが自然で、全身療法の薬どうしを自由に組み合わせてよいという意味ではありません。
ガイドラインには、この流れを図にした診断治療アルゴリズムも載っています[1]。この並びを見ると、3と4・5のあいだに、「寛解導入できたか」という分かれ目が置かれていることが分かります。新しい薬が加わるのは6の段階で、その手前には「できなかったときに、まず何を見直すか」が挟まっています[1]。
重症度を測る物差し
「寛解導入できたか」に答えるには、何らかの物差しが要ります。ガイドライン2024が挙げている主なものを並べます[1]。表の EASI は Eczema Area and Severity Index、POEM は Patient-Oriented Eczema Measure、TARC は thymus and activation-regulated chemokine の略です。
| 物差し | 中身 | 特徴 |
|---|---|---|
| 重症度のめやす | 強い炎症を伴う皮疹の面積で4段階に分ける | 軽度の皮疹のみなら軽症、10%未満が中等症、10%以上30%未満が重症、30%以上が最重症 |
| EASI | 医師が皮疹の範囲と強さを点数化する | 0〜72点。国際的な臨床試験で用いられる |
| POEM | 患者さんが7項目の質問に答える | 総点は28点。患者報告型の指標として推奨されている |
| 血清TARC値 | 血液検査 | 病勢をより鋭敏に反映するとされる。年齢別の基準値がある |
注:記載はガイドライン2024による[1]。「強い炎症を伴う皮疹」は、紅斑、丘疹、びらん、浸潤、苔癬化などを伴う病変を指す。
血清TARC値については、成人の基準値の上限が450 pg/mL未満、2〜15歳では743 pg/mL未満などと年齢で異なること、低年齢では高値になりやすいこと、ネモリズマブ治療中には一過性に上昇することがあることも記されています[1]。ネモリズマブの電子添文は、皮膚の炎症とは一致しない一過性の上昇がみられるため、投与開始から一定期間は血清TARC値を短期の病勢マーカーとして使えないとしています[5]。数字だけで判断せず、年齢と治療内容を添えて読む必要があります。
「寛解導入できたか」を外来で問う
物差しを最初に決めておく
再診で「まあまあ」が続いてしまう理由のひとつは、「できた」と判断する基準が決まっていないことにあるのかもしれません。ガイドラインは目標を患者さんと共有することが大切だとしています[1]。その目標を、初診か治療の切り替えのときに、何で測り、どのような状態を目指し、いつ見直すかまで含めて共有しておくと、再診のたびに同じ物差しで「できたか」を問えるようになります。これは本稿で組み立てた外来の整理であり、この進め方そのものの効果を示した研究に基づくものではありません。
たとえば、医師が見る皮疹の範囲と強さ(重症度のめやすやEASI)と、患者さんが感じる痒みや睡眠への影響(POEM)を一つずつ選び、カルテに記録しておく、という形です。医師の評価だけでは、皮疹は減っていても夜に眠れていない、といったずれを見落とすことがあります。どの物差しを組み合わせるかはここで提案する一例であり、ガイドラインが特定の組み合わせを示しているわけではありません。
「できていない」とき、薬を上げる前に見直すこと
寛解導入できないとき、ガイドラインが最初に挙げるのは新しい薬ではなく、外用療法の見直しです[1]。本文の記載から、確かめる点を4つに分けます[1]。
-
- 量: 必要十分な量を塗れているか。 口径5 mmのチューブから人差し指の先端から第1関節まで押し出した量(1 finger-tip unit: FTU、約0.5g)が、英国の成人の手のひら2枚分、体表面積のおよそ2%に塗る適量とされる[1]
- ランク: 個々の皮疹の重症度に合ったランクのステロイド外用薬など、皮疹に合った抗炎症外用薬を選んでいるか[1]
- 塗れているか: 処方どおりに塗れているか。 ガイドラインは、アドヒアランスを上げるよう十分な説明と指導を行う必要があるとしている[1]
- 診断: 診断と重症度をもう一度確かめたか。 必要に応じて皮膚生検を行い、皮膚リンパ腫(cutaneous lymphoma)などを除外する[1]
3の「塗れているか」は、外来では見えにくい点です。米国でアトピー性皮膚炎の小児37人に外用薬を処方し、本人たちに知らせずに電子モニターで使用状況を記録した研究では、8週間を終えた26人の平均のアドヒアランスは32%でした[2]。アドヒアランスは受診日の前後で高く、その後は急速に下がっていました[2]。同じ研究グループは、乾癬(psoriasis)の臨床試験でも受診日の前後でアドヒアランスが有意に高くなることを報告し、治療を始めてすぐの再診がアドヒアランスを高める方法になりうると述べています[3]。ただし、これは29人を対象とした小規模な観察で、再診を増やすこと自体の効果を無作為化比較で確かめた研究ではありません[3]。
「効いていない」ように見えても、実は「塗れていない」ことがある。その可能性を確かめないまま薬を上げると、次の薬の効き目も正しく評価しにくくなります。
「できた」ときに次へ進む
寛解導入できたと判断できたら、寛解維持療法に移ります[1]。ガイドラインは、抗炎症外用薬を使わない日も保湿外用薬によるスキンケアを続けることを述べています[1]。
そのうえで、再燃を繰り返しやすい場合は、間隔を空けながら定期的に抗炎症外用薬を使って再燃を抑えるプロアクティブ療法が有効とされ、再燃が少ない場合は、再燃の徴候が出たら早めに抗炎症外用薬を使って拡大や悪化を防ぐとされています[1]。
「できた」と判断することは、治療を終えることではなく、維持の段階に入ることです。ここでも、どちらの維持の方法をとるかを患者さんと決めておくと、次の再診で問うことがはっきりします。
確認したいポイント
ここまでの内容を踏まえ、再診のたびに確かめたい点を並べます。
これはここまでに挙げたガイドラインと研究から組み立てた整理であり、この順で診療した場合の結果を検証した研究があるわけではありません。
- 目標: 治療の目標を患者さんと共有したか[1]
- 物差し: 何で「寛解導入できた」と判断するかを決め、記録したか
- 量とランク: 必要十分な量を、皮疹の重症度に合ったランクで塗れているか[1]
- 塗れているか: 処方どおりに使えているかを確かめたか[1][2]
- 診断: 改善しないとき、診断と重症度をもう一度確かめたか[1]
- 維持の方法: 寛解導入できたあと、プロアクティブ療法か早めの外用かを決めたか[1]
これらは毎回すべてを読み上げるための一覧ではなく、ひとつずつが「同じ処方をもう一度出す前に、立ち止まる理由」として機能します。
おわりに
アトピー性皮膚炎の治療は、新しい薬が増えるほど「どの薬を選ぶか」に目が向きがちです。けれども、ガイドライン2024の治療の流れを問いの形で読み直すと、薬の選択より手前に、「寛解導入できたか」「できていないなら、量・ランク・塗り方・診断のどこを見直すか」という問いが置かれていることが分かります。
「まあまあです」という言葉を、決めておいた物差しで測り直す。それは寛解や安全を保証するものではありませんが、その評価を手がかりに、同じ処方を続けるのか、見直すのか、次の段階へ進むのかを、患者さんと一緒に選べるようになるのではないでしょうか。
ここまでお読みいただきありがとうございます。この記事が皆様の今後のお役に立てれば幸いです。それでは。
余白ノート
ガイドラインを読み返していて気づいたのは、「寛解導入」「寛解維持」という言葉が治療の流れの軸になっている一方で、少なくとも本稿で読んだ治療の目標と治療方法の節には、「寛解」そのものを数値で定めた基準が示されていなかったことでした。
一律の数値だけでは捉えきれない面がある、ということなのかもしれません。同じ「寛解」を目指すにしても、受験を控えた学生さんと、夜に眠れることを何より望む方とでは、生活の中で大切にしたいことが違います。目の前の患者さんとの会話から生活上の目標を確かめ、皮疹や症状の評価と合わせて、治療の到達点を共有しておきたいと思います。
参考文献
- 佐伯秀久, 大矢幸弘, 荒川浩一, 市山進, 勝沼俊雄, 加藤則人, ほか(公益社団法人日本皮膚科学会, 一般社団法人日本アレルギー学会, アトピー性皮膚炎診療ガイドライン策定委員会). アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024. 日皮会誌 2024;134(11):2741-2843. https://www.dermatol.or.jp/dermatol/wp-content/uploads/xoops/files/guideline/ADGL2024.pdf
- Krejci-Manwaring J, Tusa MG, Carroll C, Camacho F, Kaur M, Carr D, et al. Stealth monitoring of adherence to topical medication: adherence is very poor in children with atopic dermatitis. J Am Acad Dermatol 2007;56(2):211-216. doi:10.1016/j.jaad.2006.05.073
- Feldman SR, Camacho FT, Krejci-Manwaring J, Carroll CL, Balkrishnan R. Adherence to topical therapy increases around the time of office visits. J Am Acad Dermatol 2007;57(1):81-83. doi:10.1016/j.jaad.2007.04.005
- 独立行政法人医薬品医療機器総合機構. ネオーラル 電子添文(2026年5月改訂 第4版). https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/300242_3999004M3021_2_33
- 独立行政法人医薬品医療機器総合機構. ミチーガ皮下注用30mgバイアル 電子添文(2025年6月改訂 第5版). https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/730155_4490408D1021_1_04






