下腿潰瘍を前にしたときの考え方― 初診時に行うべき検査を整理する ―
私はこれまで下腿潰瘍の診療が苦手でした。その理由は単純で、考慮すべき疾患があまりにも多く、どこから検査をすべきか分からなかったからです。その場その場で「事前確率が高そうな疾患」についての検査をしようと心がけていましたが、自分の中で軸とな考え方がなく、再現性のあるアプローチができていないという感覚が拭えませんでした。
今回、改めて各種ガイドラインを読み直し、下腿潰瘍への診療について整理する機会がありました。その中で、初診時に何を必ず確認し、何を後回しにしてよいのかについて、自分なりの考えがようやく固まってきました。
本記事では、その整理を共有したいと思います。
下腿潰瘍鑑別の考え方
下腿潰瘍の診療で最も悩ましい点は、鑑別すべき疾患が非常に多いことだと思います。すべてを網羅しようとすると、果てしない検査が必要になるように感じてしまいます。しかし、緊急度と頻度から考えると、アプローチはかなり整理できます。
まずは頻度が低くとも緊急度が高い疾患を示唆する所見がないか確認する。その上でその後頻度の高い疾患についてアプローチをしていけば良いという考え方です。各種ガイドラインを読んでみても、緊急度の高い疾患には比較的簡潔に触れ、その後に静脈疾患について多くの紙面を割いているものが多く、言外に同様のメッセージを伝えているように感じました。
緊急度と頻度を考慮すること自体は臨床推論として当然ですが、下腿潰瘍においてはその整理が自分の中でできていなかった、というのが正直なところです。
それでは以下に下腿潰瘍で行うべき検査について整理していきます。
下腿潰瘍で行うべき検査
以下では、初診時の検査を 「全例で行うべき検査」と「条件付きで行うべき検査」に分けて考えます。
目的は鑑別疾患を網羅することではなく、
危険な疾患を見逃さず、かつ過剰な検査を避けることです。
表.下腿潰瘍初診時の検査
| 検査 | 主な目的・考え方 | |
|---|---|---|
| 全例で行うべき検査 | 視診・触診 | 潰瘍の分布、局所炎症所見、動脈拍動の確認。感染症や虚血をまず除外するための基本評価 |
| ABI | 動脈疾患の有無を評価し、圧迫療法の安全性を確認する | |
| 条件付きで行うべき検査 | 下肢静脈エコー | 静脈疾患の関与が強く疑われる場合に、病態把握や治療方針決定のために施行 |
| 皮膚生検 | 非典型的経過、治療反応不良例、特定疾患が疑われる場合に鑑別目的で検討 | |
| 凝固系・免疫系血液検査 | 血栓性疾患や免疫学的疾患が疑われる背景がある場合に追加 |
全例で行うべき検査
初診時にまず考えるべきなのは、以下の2点です。
①細菌感染症
②動脈疾患
細菌感染症は、局所の炎症所見や血液検査から比較的容易に評価でき、見逃すと全身状態に影響する可能性があります。
また、頻度の高い静脈疾患に対して圧迫療法を検討する際には、動脈疾患の有無を必ず確認する必要があります。動脈疾患を合併している場合、圧迫がかえって状態を悪化させる危険があるためです。
そのため初診時には、以下の検査をまず行うことが重要と考えます。
・視疹、触診
・ABI
ここでの主な目的は、感染症の合併と動脈疾患の有無を確認することです。 いずれかを認めた場合には、それぞれに応じた治療を優先すべきでしょう。
両者を否定できた場合には、頻度の高い静脈疾患の関与を考え、圧迫療法を開始するという選択肢が見えてきます。視診で静脈瘤を認めれば、さらに圧迫療法を行う動機づけになるでしょう。
もちろん、病歴や身体所見から特定の疾患の事前確率が高いと判断される場合には、この時点で追加検査を行うことも否定されません。
条件付きで行うべき検査
以下の検査は条件付きで施行すべきと考えます。
・下肢静脈エコー
・皮膚生検
・凝固系・免疫系の血液検査
これらの検査は鑑別を絞り込むために有用ですが、陽性だった際に考慮すべき疾患の頻度は必ずしも高くはありません。注意すべき所見を有していないならば最初に行う必要度は下がってくるでしょう。圧迫療法を先に施行して反応性を確認するという戦略も現実的な選択肢になり得ます。
初診時の下腿潰瘍へのアプローチ
以上を踏まえ、私自身は現在、下腿潰瘍の初診時に以下の流れを意識しています。
視診・触診とABIで感染と虚血を除外する。
問題なければ静脈性要素を仮定して圧迫療法を開始。
反応が乏しい場合には追加検査を検討する。
下腿潰瘍は複数の病因が重なり合うことも多く、単純化しすぎることは危険ですが、少なくとも初診時の意思決定を整理するうえでは有用な枠組みだと感じています。
ここまでご拝読ありがとうございます。この記事が皆様の今後に役立てれば幸いです。それでは。
余白ノート
下腿潰瘍は鑑別疾患が多く混乱を招きやすいと思います。しかも複数の要素が重なりうるとなると眩暈がしてきます。
今回は主に初診時の検査に焦点を当てましたが、さらに精査をしていくには個々の疾患への理解が不可欠です。
考慮すべき疾患の整理としては、EWMA の LOWER LEG ULCER DIAGNOSIS AND PRINCIPLES OF TREATMENT に含まれる 6. Atypical wounds の章が参考になると感じましたので、興味のある方は参照してみてください。
