足の水疱で単純ヘルペスを想起できるか――切開の前に立ち止まる

見え方――足部の単純ヘルペスは、小水疱の集簇という典型像から外れて見えうる。
誤認先――足趾例で報告されているのは細菌感染であり、抗菌薬・切開・デブリードマンが先行しうる。疼痛の欠如は除外の根拠にならない。
確かめ方――処置の前に水疱内容での確認を検討する。検査陰性を除外の根拠にせず、細菌感染の評価と必要な外科的対応は遅らせない。[1][2][3][4][5][6][7][10][11]
はじめに
足趾が赤く腫れ、水疱や膿疱のようにみえる病変を伴っている。抗菌薬を始めても改善が乏しく、「ひょう疽として切開しようか」という相談が持ち上がる。外来や病棟で、そのような場面に出会うことがあります。
このとき、単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus: HSV)の感染を鑑別に挙げられるでしょうか。口唇や陰部であればすぐに思い浮かぶ疾患が、足では浮かびにくいと感じる方も多いのではないでしょうか。
本稿では、足部の単純ヘルペス(単純疱疹, herpes simplex)を、見え方、誤認先、確かめ方の3つの軸で整理します。指趾・掌蹠での水疱の見え方を確認したうえで、細菌感染として扱われた足趾の報告と、切開・デブリードマンの前に考えたいことを順にみていきます。
指趾・掌蹠での水疱の見え方
単純ヘルペスは全身のどこにでも生じえますが、好発部位は口唇、陰部、手指とされています。指に生じたものはヘルペス性ひょう疽(herpetic whitlow)と呼ばれ、有痛性の水疱や膿疱が群生します[1]。なお、この名称を足趾の病変にも用いるのは一部の著者による拡張であり、本稿でもその用法にならいます[4][6][7]。
典型像は紅暈を伴う小水疱の集簇です。しかし、指趾や掌蹠では、この見え方がそのまま当てはまるとは限りません。
- 手掌・足底に生じた水疱は、厚い角層にはばまれて隆起することが少なく、皮面からは小さな水滴のようにみえる(汗疱状)[1]
- ヘルペス性ひょう疽では、他部位に比べて水疱が破れにくい[1]
- 手指では小水疱が癒合し、蜂巣状(honeycomb-like)となりうる[2][3]。癒合は数日のうちに進んで大きな水疱となり、内容は混濁し、血性となることもある[2]
隆起に乏しく、破れずに保たれ、癒合して濁る。こうした特徴が足部でも当てはまるとすれば、足部の単純ヘルペスは「小水疱の集簇」ではなく、ひとつの大きな水疱や膿疱のように見えうると考えられます。
もっとも、足部で水疱の大きさを検討した報告は調べた範囲では見当たらず、これは手指の記載からの推測にとどまります。足趾例を報告したMohlerも、角化の強い足趾では外観が手指とやや異なりうると述べるにとどめています[4]。
足部の単純ヘルペスが想起されにくい場面
ここからは、足部の単純ヘルペスがどのような診断のもとで見過ごされうるかをみていきます。根拠の多くは少数の症例報告であり、個々の症例では異なる場合もあります。
細菌感染
足趾のヘルペス性ひょう疽について、報告上の誤認先として確認できるのは、蜂窩織炎(cellulitis)や細菌性のひょう疽(felon)といった細菌感染です。足趾の4例を、年齢とともに示します。
- 13か月の女児、左第5趾。細菌性の蜂窩織炎として経口抗菌薬が投与され、壊死部のデブリードマンの後にHSV-1が培養された。発熱を伴っており、抗ウイルス薬とともに、細菌の二次感染を考慮した抗菌薬の静注が並行して行われた[4]
- 22か月の男児、右母趾。前医で水疱の除去と抗菌薬投与を受け、細菌性のひょう疽として切開排膿が行われたが膿はなく、細菌培養は陰性であった。術中に確認された水疱性病変からのPCRでHSV-1が検出された[5]
- 28歳の女性、右第2趾。蜂窩織炎として経口、続いて静注の抗菌薬が投与され、わずかに改善して退院した。その2日後に再入院したときには水疱が趾の全周に拡大し、近位縁に出血性の変色を伴っていた。穿刺液の直接蛍光抗体法でHSV-2が検出された[6]
- 68歳の男性、右第2趾(国内からの報告)。糖尿病性神経障害のため疼痛がなく、細菌性蜂窩織炎として経口抗菌薬が処方された。48時間以内に潰瘍と不整形の膿疱を生じ、膿疱底のぬぐい液からHSV-1が検出された[7]
乳幼児2例と成人2例であり、頻度や一般性を語れる数ではありません。それでも、足趾のHSV感染が細菌感染と判断され、抗菌薬、切開、デブリードマンが先行しうることは、これらの報告が直接示しています。
Mohlerは、それまでに報告された足趾例も当初は細菌性と考えられていたと述べています[4]。小児のヘルペス性ひょう疽42例を集めた文献レビューでは、65%が当初は細菌性のひょう疽と考えられていました。ただし、これは小児例の集計であり、足趾に限ったものではありません[8]。
切開しても膿が出ないことは、国内の手指例(1例)でも記載されています[3]。先に述べたように水疱の内容は混濁することがあり[2]、これが膿と見誤られうる点にも留意が必要です。
両者の違いを、報告に記載のある範囲で対比します。
| ヘルペス性ひょう疽 | 細菌性のひょう疽 | |
|---|---|---|
| 水疱・膿疱の内容 | 当初は透明。混濁・血性化し、膿のように見えうる | 膿瘍形成時は膿を認めうる |
| 切開時の所見 | 膿が出なかった報告がある(足趾1例、手指1例) | 膿瘍があれば排膿を認めうる |
| 確かめ方 | Tzanck試験、HSV抗原、核酸検査など。報告例には細菌培養が陰性のものがある | グラム染色、細菌培養を検討 |
| 切開排膿 | 手指では行わないものとされる。足趾では慎重に考える(細菌感染の併存や重症感染の疑いは別に評価) | 膿瘍形成時には切開排膿を検討 |
注:両者は併存しうるため、明らかな膿を認める場合は細菌感染の関与を考える。ひとつの所見のみで区別することはできない。 [2][3][5][6][9][10][11]
では、どのような場面でHSVを鑑別に戻すか。28歳の症例で検査のきっかけとなったのは、次の4点でした[6]。
-
- 強い疼痛
- 同じ部位の同様の既往
- 水疱穿刺液の細菌培養が陰性
- 抗菌薬に反応しない経過
これらは疑いを引き上げる方向にのみ使える手がかりであり、該当しないことを除外の根拠にはできません。 この症例でも、抗菌薬の静注でいったんわずかな改善がみられていました[6]。
68歳の症例は、疼痛がまったくないHSV感染でした。著者らは、疼痛の欠如が早期診断を難しくしたと考察しています[7]。「痛みが強ければHSVを疑う」と「痛みがなければHSVを除外できる」は、別の命題です。
切開・デブリードマンの前に
手指のヘルペス性ひょう疽では、切開排膿は行わないものとされています[2][3]。理由として挙げられているのは、症状の緩和につながらないこと、ウイルス血症や細菌の二次感染を招きうることです[2]。免疫不全のない患者さんでは2〜4週間で自然に軽快するとされています[1][2]。小児例の文献レビューも、外科的介入は有害となりうるため避けるべきと結論しています[8]。足趾例を報告したMohlerも、重い結果を招く理論上のリスクを理由に、外科的デブリードマンは一般に勧められないと述べています[4]。一方で、爪部の病変に対する除圧目的の処置が疼痛を和らげたとする記載もあり[2][4]、あらゆる処置が一律に否定されているわけではありません。
ここで対象を限定しておきます。慎重に考えるべきなのは、細菌感染を前提とした切開排膿やデブリードマンです。診断のために水疱を穿刺して内容を採ること、Tzanck試験のために水疱蓋の一部を切除することは、これとは別の行為です。報告例でも、診断は水疱の穿刺液や、蓋を除いた病変の底のぬぐい液から得られています[2][4][6][7]。
実際の場面に置き換えると、足趾の水疱・膿疱様病変に対して切開排膿やデブリードマンを予定するとき、その前に水疱内容でHSVを確認できないかを一度検討する、ということになります。確認には、Tzanck試験、イムノクロマト法によるHSV抗原の検出、核酸検査などが用いられます[9]。いずれの検査も、陰性であることのみをもってHSV感染を否定することはできません[10]。処置の可否そのものを決める基準ではなく、処置の前に一手間を加えるという提案です。
同時に、HSVを想起することは、細菌感染の評価を省く理由にはなりません。 小児の手指では、黄色ブドウ球菌によるblistering distal dactylitis(BDD)とHSV感染が併存した例が報告されています[11]。先に挙げた13か月の足趾例でも、抗ウイルス薬と抗菌薬が並行して投与されていました[4]。「HSVが検出された」と「細菌感染がない」は別の命題です。
発熱や全身状態の悪化、急速な進行など、重症の軟部組織感染が疑われる場面では、その評価と治療を先に置きます。HSVの確認を理由に、必要な外科的対応を遅らせないことが前提になります。
処置の前に確認したいポイント
ここまでの内容を踏まえ、足部の水疱・膿疱様病変で切開やデブリードマンを考える前に確認したい点を、3つの軸に沿って整理します。
- 見え方:小水疱の集簇でなくても、大きな水疱や膿疱様でも、HSVを鑑別から外さない
- 誤認先:細菌感染として治療中に、強い疼痛、同部位の同様の既往、培養陰性、抗菌薬への反応不良があれば、HSVを鑑別に戻す(重症の軟部組織感染の評価が先)
- 誤認先:疼痛がないこと、上記の手がかりに該当しないことを、除外の根拠にしない
- 確かめ方:処置の前に、水疱内容の採取を検討する。緊急の外科的対応は遅らせない
- 確かめ方:検査が陰性でも、臨床的に疑わしければHSVを否定しない
- 確かめ方:HSVの確認と並行して、細菌感染の評価を続ける
これらはルーチンとして並べる項目ではなく、ひとつずつが、細菌感染という最初の見立てを問い直す契機として機能するものです。また、HSV感染の有無を保証するものではなく、切開の前に立ち止まるための最小限の確認にとどまります[2][4][6][7][10][11]。
おわりに
足部の単純ヘルペスについて、症例報告が直接示しているのは、足趾の病変が細菌感染と判断され、抗菌薬や切開が先行した例があるということです。足部で水疱がどのように見えるのかについては、まだ分かっていないことが多く残されています。
それでも、切開やデブリードマンの前に水疱の内容を採ることを一度検討するという一手間は、見え方にかかわらず考えられるものです。足の水疱を前にして「ヘルペスかもしれない」と一度立ち止まれるかどうか。部位が変わるだけで見慣れた疾患が見えにくくなることを、足部の単純ヘルペスは教えてくれるのかもしれません。
ここまでお読みいただきありがとうございます。この記事が皆様の今後のお役に立てれば幸いです。それでは。
余白ノート
足の単純ヘルペスは、口唇や陰部のものに比べて水疱が大きい。私自身、何となくそのような印象を持っていました。大きな水疱を前にすると、水疱症や糖尿病性水疱のほうが先に頭に浮かび、単純ヘルペスが鑑別から抜けてしまうのではないか。その印象に裏付けがあるのかを知りたいと思い、調べてみることにしました。
結果として、この印象をそのまま支持する研究は見つかりませんでした。確認できたのは「ひょう疽の水疱は破れにくい」「手指では癒合して大きくなる」という個別の記載までで、掌蹠の水疱についてはむしろ「隆起せず小さく見える」という記載でした。報告されている誤認先も、水疱症ではなく細菌感染です。臨床で抱いた印象は、調べてみると一部は文献の記載と重なり、一部は重ならない。そういうことは少なくないのではないでしょうか。印象を印象のまま置かず、どこまでが文献で言えることなのかを機を見て確かめておくことが、次に同じ病変を前にしたときの足場になるように思います。
参考文献
- 清水宏. あたらしい皮膚科学 第3版. 中山書店, 2018. 4章 発疹学 p.67, 23章 ウイルス感染症 p.488-489.
- Betz D, Fane K. Herpetic Whitlow. StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2023年7月31日更新. Bookshelf ID: NBK482379. PMID: 29494001
- 伊豆邦夫, 山元修, 末永義則. 医療従事者に生じたヘルペス性瘭疽の3症例. J UOEH 2001;23(2):161-167. doi:10.7888/juoeh.23.161
- Mohler A. Herpetic whitlow of the toe. J Am Board Fam Pract 2000;13(3):213-215. doi:10.3122/15572625-13-3-213
- Jeong YR, Yoon YS. A case of herpetic whitlow of toe misdiagnosed as bacterial infection: a case report. J Korean Foot Ankle Soc 2024;28(2):68-70. doi:10.14193/jkfas.2024.28.2.68
- Egan LJ, Bylander JM, Agerter DC, Edson RS. Herpetic whitlow of the toe: an unusual manifestation of infection with herpes simplex virus type 2. Clin Infect Dis 1998;26(1):196-197. doi:10.1086/517063
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- Szinnai G, Schaad UB, Heininger U. Multiple herpetic whitlow lesions in a 4-year-old girl: case report and review of the literature. Eur J Pediatr 2001;160(9):528-533. doi:10.1007/s004310100800
- 渡辺大輔. イムノクロマト法を用いた単純ヘルペスウイルス抗原の検出. モダンメディア 2023;69(9):231-235.
- デルマクイックHSV 電子添文(2025年2月改訂 第2版). 独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA). https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/ivdDetail/ResultDataSetPDF/730155_30300EZX00061000_A_01_02
- Ney AC, English JC 3rd, Greer KE. Coexistent infections on a child’s distal phalanx: blistering dactylitis and herpetic whitlow. Cutis 2002;69(1):46-48. PMID: 11829178






