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皮膚科で押さえる血管腫瘍の分類―ISSVAで「腫瘍」と「奇形」を分けて考える―

derm-thinking
Take Home Message ① 「血管腫」と呼ばれてきた病変には、細胞増殖を伴う腫瘍と、増殖性を欠く形成異常である奇形が混在する [1,2]。
② 脈管性腫瘍はISSVA分類で良性/境界型/悪性の三層に整理される [1,2]。
③ 乳児血管腫と先天性血管腫は、生下時の完成度・生後の増殖・自然退縮のパターン・GLUT-1発現の四点で対比的に理解する [3,4,5]。

はじめに――その「血管腫」、本当に血管腫瘍ですか

皮膚科の外来で赤色から青紫色の腫瘤を診たとき、私たちはついカルテに「血管腫」と書いてしまいがちです。しかし、日常語としての「血管腫」には、細胞増殖を伴う血管腫瘍(vascular tumors)と、血管・リンパ管の形成異常である脈管奇形(vascular malformations)が混在しています [1,2]。

この混乱を避けるために重要なのが、ISSVA分類に基づいて、まず「腫瘍」か「奇形」かを分けて考えることです。乳児血管腫から血管肉腫まで、良性から悪性までの幅をもつ血管腫瘍を理解するには、最初にこの仕分けを行う必要があります。

ISSVA分類は改訂を重ねており、現在はISSVA 2025分類が公開されています [1]。本記事では、日本語診療ガイドライン2022も参照しながら、皮膚科診療で出会いやすい血管腫瘍を中心に、代表5疾患――乳児血管腫・先天性血管腫・化膿性肉芽腫・血管肉腫・カポジ肉腫――を整理します [2]。


インタラクティブISSVA分類表

左列が脈管性腫瘍、右列が脈管奇形です。各カテゴリのバーをクリックすると含まれる疾患リストが開き、下位の項目があるものはさらに入れ子で展開できます。★印の疾患名をクリックすると、記事末尾の各論カードへジャンプします。

ISSVA分類 早見表

脈管性腫瘍
Vascular tumors
良性 / Benign

腫瘍性あるいは反応性の細胞増殖性病変のうち、良性に分類されるもの。

疾患名関連遺伝子変化
★ 乳児血管腫(infantile hemangioma)ISSVA未記載
★ 先天性血管腫(congenital hemangioma:RICH/NICH/PICH)GNAQ / GNA11
房状血管腫(tufted angioma)GNA14
紡錘型細胞血管腫(spindle-cell hemangioma)IDH1 / IDH2
類上皮血管腫(epithelioid hemangioma)FOS
★ 化膿性肉芽腫(pyogenic granuloma, lobular capillary hemangioma)BRAF / RAS / GNA14
その他
境界型 / borderline

良性と悪性の中間に位置づけられる脈管性腫瘍。

疾患名関連遺伝子変化
カポジ肉腫様血管内皮細胞腫(kaposiform hemangioendothelioma, KHE)GNA14
網状血管内皮腫(retiform hemangioendothelioma)
乳頭状リンパ管内血管内皮腫(PILA, Dabska腫瘍)
複合型血管内皮腫(composite hemangioendothelioma)
偽性筋原性血管内皮腫(pseudomyogenic hemangioendothelioma)FOSB
★ カポジ肉腫(Kaposi sarcoma)
その他
悪性 / Malignant

悪性に分類される脈管性腫瘍。

疾患名関連遺伝子変化
★ 血管肉腫(angiosarcoma)MYC(放射線照射後)
類上皮血管内皮腫(epithelioid hemangioendothelioma)CAMTA1 / TFE3
その他
脈管奇形
Vascular malformations
単純型 / Simple

主たる脈管成分によって4群に分けられる。各群をさらに開くと含まれる疾患が表示される。

毛細血管奇形 CM

毛細血管奇形(capillary malformations, CM)に含まれる疾患。

疾患名関連遺伝子変化
Nevus simplex(サーモンパッチ, “angel kiss”, “stork bite”)
皮膚粘膜CM, ポートワイン母斑GNAQ
中枢神経・眼異常を伴うCM(Sturge-Weber症候群)GNAQ
骨軟部組織の過成長を伴うCMGNA11
過成長を伴うびまん性CM(DCMO)GNA11
網状CM(reticulate CM)
小頭症-毛細血管奇形(MIC-CAP)STAMBP
巨脳症-毛細血管奇形-多小脳回症(MCAP)PIK3CA
CM-AVMのCMRASA1 / EPHB4
先天性血管拡張性大理石様皮斑(CMTC)
遺伝性出血性末梢血管拡張症(オスラー病)/その他ENG / ACVRL1 / SMAD4
リンパ管奇形 LM

リンパ管奇形(lymphatic malformations, LM)に含まれる疾患。一般型LMの関連遺伝子変化はPIK3CA。

疾患名
一般型(嚢胞状)LM:マクロシスティック / ミクロシスティック / 混合型
全身性リンパ管異常(GLA)
カポジ型リンパ管腫症(KLA)
Gorham-Stout病に伴うLM
リンパ管拡張症(channel type LM)
後天性進行性リンパ管異常
原発性リンパ浮腫(FLT4/VEGFR3, VEGFC, GJC2, FOXC2, SOX18, GATA2, CCBE1, KIF11, PTPN14など)
静脈奇形 VM

静脈奇形(venous malformations, VM)に含まれる疾患。「海綿状血管腫」「筋肉内血管腫」もここに含まれる。

疾患名関連遺伝子変化
一般型VMTEK (TIE2) / PIK3CA
家族性皮膚粘膜静脈奇形(VMCM)TEK (TIE2)
青色ゴムまり様母斑(Bean)症候群のVMTEK (TIE2)
グロムス静脈奇形(GVM)Glomulin
脳海綿状奇形KRIT1 / Malcavernin / PDCD10
家族性骨内脈管奇形(VMOS)ELMO2
疣状静脈奇形(疣状血管腫)MAP3K3
動静脈奇形・動静脈瘻 AVM / AVF

高流速の脈管奇形。

疾患名関連遺伝子変化
AVM孤発性MAP2K1
オスラー病に伴うものENG / ACVRL1 / SMAD4
CM-AVMに伴うものRASA1 / EPHB4
AVF孤発性MAP2K1
オスラー病に伴うものENG / ACVRL1 / SMAD4
CM-AVMに伴うものRASA1 / EPHB4
混合型 / Combined

同一部位に複数の脈管成分が混在したもの。

組み合わせ略称
CM + VMCVM
CM + LMCLM
CM + AVMCAVM
LM + VMLVM
CM + LM + VMCLVM
CM + LM + AVMCLAVM
CM + VM + AVMCVAVM
CM + LM + VM + AVMCLVAVM
主幹型 / Of major named vessels

解剖学的名称を有する動静脈やリンパ管の起始・走行・形態・数などの異常、および胎生期血管遺残。

異常脈管リンパ管 / 静脈 / 動脈
異常の種類起始 / 走行 / 本数 / 長さ / 径(無形成・低形成・狭窄・拡張・動脈瘤) / 弁 / 交通(AVF) / 胎生期血管の遺残
脈管奇形関連症候群 / Associated with other anomalies

脈管奇形に加えて、脚長差や片側肥大などの軟部組織・骨格異常を合併する疾患(抜粋)。

疾患名特徴関連遺伝子変化
Klippel-Trenaunay症候群CM + VM ±LM + 四肢過成長PIK3CA
Parkes Weber症候群CM + AVF + 四肢過成長RASA1
Sturge-Weber症候群顔面 + 脳軟膜CM + 眼異常GNAQ
Maffucci症候群VM ±紡錘細胞血管腫 + 内軟骨腫IDH1 / IDH2
CLOVES症候群LM + VM + CM ±AVM + 脂肪性過成長PIK3CA
Proteus症候群CM, VM, LM + 非対称性過成長AKT1
暫定的に分類困難な脈管異常

現時点では脈管性腫瘍か脈管奇形か分類が困難な稀な病変。

疾患名関連遺伝子変化
筋肉内血管腫(intramuscular hemangioma)
被角血管腫(angiokeratoma)
Sinusoidal hemangioma
Acral arteriovenous “tumour”
線維脂肪性脈管異常(FAVA)PIK3CA
PTEN過誤腫症候群(PHOST)PTEN
この三層の意味するもの
脈管性腫瘍の三層は単なる悪性度ランキングではなく、生物学的振る舞いの違いを反映しています [1,2]。良性群には自然退縮するもの(乳児血管腫・RICH)から退縮しないもの(NICH)まで幅があり、境界型は遠隔転移こそ稀ですが組織を浸潤性に破壊し、悪性群は転移能をもちます [1,2]。皮膚科の現場では、まずこの三層のどこに位置づけられる病変かを仕分けることが診療方針の出発点になります。

代表5疾患の各論

1. 乳児血管腫(infantile hemangioma)

ISSVA分類良性脈管性腫瘍。胎盤絨毛膜の微小血管を構成する細胞と類似したGLUT-1陽性の血管内皮細胞が増殖する良性腫瘍 [3,4]。従来の「いちご状血管腫(strawberry hemangioma)」と同義 [2,3]
発症時期約60%は生下時には認めない [3]。生後数週で前駆病変が出現し、生後2週間程度で病変が顕在化する [3]
頻度日本人での発症率は0.8〜1.7%、早期産児・低出生体重児・女児に多い [3]
好発部位頭頸部約60%、体幹約25%、四肢約15% [3]

典型的な臨床像

臨床型は表在型(superficial type)・深在型(deep type)・混合型(mixed type)に分けられます。表在型は赤く小さな凹凸を伴ういちご様の表面を呈し、深在型は皮下に生じ皮表変化に乏しく青色調を呈します [3]。

自然史

おおむね以下の三相を経過しますが、経過は個人差が大きく全経過は10年を超えることもあります [3]。

  • 増殖期(〜1.5歳):急速に増大
  • 退縮期(消退期)(〜5歳頃):徐々に縮小
  • 消失期(5歳以降):退縮傾向がほぼ完了

診断のポイント

多くは視診で診断可能ですが、病理組織で腫瘍細胞がGLUT-1陽性となることが他の血管性腫瘍との決定的な鑑別点です [3,4]。先天性血管腫・房状血管腫・カポジ肉腫様血管内皮細胞腫はGLUT-1陰性となります [3,4]。深在型では皮表変化に乏しいため、皮様嚢腫・毛母腫・脳瘤など他の腫瘤性病変との鑑別にMRIや超音波検査が有用です [3]。MRIでは増殖期にT1等〜低信号、T2高信号、内部にflow voidを認め、Dynamic studyで早期から均一に強く造影されます [4]。

治療

機能障害・潰瘍・出血・感染・敗血症の危険性、また将来的な整容的問題を惹起する可能性のある病変では早期に治療を検討します [3]。本邦では2016年にプロプラノロール内用液が承認されて以降、機能障害や整容的問題が懸念される乳児血管腫では、プロプラノロール内服が主要な治療選択肢となるです [3]。

本邦の第Ⅲ相臨床試験において、プロプラノロール内服52週時の標的病変の奏効率は良好であり、本薬の有効性と安全性が示された [3]。

副作用として低血糖・血圧低下・徐脈・睡眠障害・気管支痙攣などに十分な注意が必要で、特に低血糖は致命的となりうるため、プロプラノロールの投与は授乳(食事)中または授乳(食事)後に行い、服用量が少なかった場合や嘔吐した場合でも追加投与を行わないことが強く推奨されています [3]。その他の選択肢として外用β遮断薬(チモロールマレイン酸塩外用)、副腎皮質ステロイド、色素レーザー、外科的切除などがあります [3]。

注意すべき点

  • 皮膚病変が5つ以上ある場合は肝血管腫のスクリーニングとして腹部超音波を実施 [3]

皮膚科診療でのポイント

  • 「生下時には目立たない/生後数週で顕在化/急速に増大」は乳児血管腫の強い手がかり
  • 機能障害・整容面のリスクが想定される病変は増殖期の早期にプロプラノロール導入の判断を
  • 病理組織で迷ったらGLUT-1染色

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2. 先天性血管腫(congenital hemangioma)

ISSVA分類良性脈管性腫瘍。GNAQ/GNA11の体細胞変異が報告されている [5]
細分類自然消退の有無により、RICH(急速退縮性)/NICH(非退縮性)/PICH(部分退縮性)の3型 [1,4,6]
発症時期出生時にすでに腫瘍が完成した状態で存在。生後は患児の成長速度を超えて大きく増大することはない [2,4]
男女比Braunら57例の解析では男児優位(男女比1.7) [6]
好発部位四肢51%、頭頸部33%、体幹16%(Braunら)。半数以上は2〜5cm大、約1/3は5cmを超える [6]

典型的な臨床像

単発の局面ないし腫瘤で、表面の毛細血管拡張と辺縁の蒼白なハロー(pale peripheral halo)が特徴とされます [4,6]。

  • RICH:典型的には表面紫紅色の隆起性皮下腫瘤、皮表に毛細血管拡張、中央部が潰瘍化することがある [4,6]
  • NICH:隆起性変化に乏しく、典型的には萎縮調で辺縁が蒼白な被覆表皮を有する平坦な局面 [4,6]
  • PICH:生下時はRICHと同様の隆起性腫瘤として現れる [6]

自然史

  • RICH:生後数日から数週で消退が始まり、Braunらの報告では全消退確認まで中央値12か月 [6]
  • NICH:消退せず、患児の成長とともに拡大 [4]
  • PICH:部分的に退縮した後、安定化して残存 [6]
Braunらの解析では、生下時にRICH様の臨床像を呈した症例の約3分の1が完全消退に至らずPICHへ移行した。生下時の所見だけではRICHとPICHを区別できず、親への予後説明で留意すべきとされる [6]。

診断のポイント

出生時にすでに完成している経過と、病理組織でGLUT-1陰性となる点で乳児血管腫と鑑別します [4,6]。組織学的には内皮細胞と周皮細胞の増殖を伴った網目状の小血管からなる房状病変が認められ、退縮前のRICHとNICHは鑑別困難です [4,6]。超音波検査ではvenous lake、血管拡張、石灰化(静脈石)が特徴的で、動静脈シャントを認めることもあります [4]。MRIではT1等〜低信号、T2高信号、内部や辺縁にflow void、造影で均一に造影されます [4]。

治療

RICHでは基本的に経過観察が選択されます [4]。大きな病変では一過性の血小板減少や消費性凝固障害、高拍出性心不全を呈することがあり、緊急性のある合併症がある場合には手術や塞栓療法を考慮します [4,6]。NICHとPICHについては整容面・疼痛の観点から切除が検討されることが多く、Braunらの報告でも手術指示の主因は整容・疼痛・出血でした [4,6]。

注意すべき点

  • 巨大病変での高拍出性心不全:胎内から発症する例も報告される。文献的に死亡率30%との報告もあり、大型病変は厳重なモニタリングを要する [6]
  • 潰瘍を伴うPICHの急性大量出血:潰瘍下の大型血管の壁びらんによると考えられる大量出血の報告がある [6]

乳児血管腫と先天性血管腫の対比

鑑別軸乳児血管腫先天性血管腫
生下時に完成しているか多くは生下時に存在しない、または前駆病変のみ [3]出生時に腫瘍が完成 [4,6]
生後に増殖するか生後2週間程度から急速に増大、1.5歳頃まで増殖期 [3]患児の成長を超えた増大はない [4]
自然退縮のパターン1.5歳頃から退縮、5歳頃まで消退期、消失期 [3]RICH:1年程度で消退/NICH:消退せず/PICH:部分退縮で安定化 [4,6]
GLUT-1の扱い陽性(増殖期から退縮期まで一貫して陽性) [3,4]陰性 [4,6]

*GLUT-1は脳の毛細血管・胎盤の血管・verrucous hemangiomaの一部にも陽性となるため、GLUT-1陽性であればただちに乳児血管腫と確定できるわけではない [3]。

皮膚科診療でのポイント

  • 「生下時に完成」「以後増大しない」が見えたら先天性血管腫を疑う
  • 生下時所見だけでRICHとPICHを確実に区別することは難しい。RICH様に見えても完全消退に至らない例があるため、予後説明では経過観察の必要性を伝える [6]
  • 潰瘍を呈したRICH様病変はPICHへの移行と大量出血のリスクを念頭に

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3. 化膿性肉芽腫(pyogenic granuloma)

ISSVA分類良性脈管性腫瘍。BRAF/RAS/GNA14の体細胞変異が報告されており [1,7]、ISSVAでは別名lobular capillary hemangioma(分葉状毛細血管腫)として記載される [1,2]

典型的な臨床像

皮膚・口腔粘膜・歯肉・結膜などに、赤色の易出血性で有茎ないし無茎の小結節として急速に出現する血管増殖性病変です。表面はしばしば潰瘍化し、衣服や接触で容易に出血します [7]。小児や若年男性に多いとされますが [7]、妊娠中の歯肉病変や、外傷・ホルモン・薬剤を契機に出現する例も知られています [7]。

病因と分類

「化膿性」「肉芽腫」という古い病名は、組織学的に炎症性肉芽腫ではなく真の血管増殖性病変であることから誤称とされてきました [7]。Groesserらの遺伝子解析は、この呼称を裏付けるように反応性増殖ではなく腫瘍性病変であることを示しました [7]。臨床的には以下の2型が区別されます:

  • 孤発性PG:単発の皮膚・粘膜結節として出現。BRAF V600EまたはRAS変異が一部に検出される [7]
  • 続発性PG:ポートワイン母斑(毛細血管奇形)上に発生する型。下層のポートワイン母斑がもつGNAQ変異に加えて、PGの内皮細胞にBRAF V600E変異が”second hit”として加わるという、二段階腫瘍形成モデルが提唱されている [7]

病理組織

ISSVAで別名とされる通り「分葉状毛細血管腫(lobular capillary hemangioma)」――小型血管が分葉状(lobular)に増殖する像――を呈します [2,7]。BRAF V600E変異特異抗体(VE1)による免疫染色では、変異の担い手が内皮細胞であることが示されています [7]。

診断のポイント

臨床像は典型的ですが、特に無色素性悪性黒色腫との鑑別が常に重要です。出血しやすい暗赤色〜黒色の急速増大結節は必ず鑑別に挙げ、確定診断および誤診回避の観点から切除した検体は必ず病理組織検査に提出することが望まれます [7]。

治療

外科的切除が基本となります。電気焼灼・冷凍凝固・色素レーザーなど局所処置も選択肢となりますが、再発例は少なくありません [7]。

注意すべき点

  • 無色素性悪性黒色腫の除外:易出血性の赤色〜黒色結節を「化膿性肉芽腫」と即断せず、臨床像が非典型的なものは特に組織診で確認する
  • 持続性/再発性病変での生検:複数回の処置で再発する症例では、時に診断そのものを見直す姿勢が必要になりうる

皮膚科診療でのポイント

  • 「血管腫」というラベルに安住せず、ISSVA上は良性血管腫瘍の独立項目として位置づけられる病変だと認識する

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4. 血管肉腫(angiosarcoma)

ISSVA分類悪性血管腫瘍の代表疾患
疫学軟部肉腫の約2〜3%を占める稀な腫瘍 [8]。本邦では人口100万人あたり年間1.1〜2.5人と推算され、欧米と比べて高い [8]。皮膚血管肉腫の50〜60%が頭頸部発症、本邦では80〜90%が頭頸部 [8,9]
発症年齢高齢者に多く、本邦の調査では平均74.5歳、男女比約2:1 [8]

典型的な臨床像

臨床的には浸潤や隆起のない境界不明瞭な紅斑・出血斑・紫斑として始まることが多く、初期では打ち身や外傷による出血斑との区別が難しい場合があります [8,9]。紫斑の境界は不明瞭で、組織内出血の量と時期を反映して黄褐色調〜赤色調〜紫色調と多様な色調を呈します [8]。進行すると局面や結節を形成し、しばしば易出血性となって壊死性痂皮や潰瘍を伴うようになります [8,9]。さらに進行すると大型の易出血性腫瘤を形成します [8]。

血管肉腫はしばしば打撲痕・血腫・蜂窩織炎・瘢痕性脱毛などと誤認され、診断の遅延が予後を著しく悪化させる [9]。診断までの中央値は5〜7か月、頭皮病変では1年に及ぶ例もある [9]。

自然史と予後

進行は急速で、3年疾患特異的生存率は40%、5年生存率は17%程度との報告もあり [9]、予後不良の代表疾患です。リンパ行性および血行性転移を早期から生じ、特に肺転移は血胸・血気胸を生じやすく直接死因となることが多いとされます [8]。

診断のポイント

高齢者の頭部における「治らない紅斑」「広がる紫斑」を血管肉腫として疑う臨床的閾値を下げることが診断の鍵です [8,9]。境界部を含む十分な深さの皮膚生検が必須で、生検後すみやかに治療を開始することを前提とします [8]。ダーモスコピーでは紫色を背景に白色線条・白色円形構造・atypical vesselsなどが報告されています [9]。

病理組織は不規則に拡張・吻合する血管腔と異型・多形な内皮細胞の増殖を特徴とします [8]。免疫染色はCD31・CD34・FLI-1・ERGが血管内皮マーカーとして有用で、特にCD31は感受性・特異性とも高いとされます [8]。リンパ管内皮マーカーであるD2-40・Prox-1・VEGFR-3も陽性となることがあります [8]。放射線照射後およびリンパ浮腫関連の血管肉腫ではMYCが陽性となり、放射線照射後の異型血管病変との鑑別に有用です [8,9]。

治療

従来は外科的広範切除が第一選択でしたが、皮膚血管肉腫は多中心性・非連続性に病変を形成することが多く、切除マージン1cm未満では予後不良となるため1cm以上のマージンが必要とされます [8]。臨床的に十分なマージンで切除しても組織学的に断端陽性となることが多く、術後再発率は26〜100%と幅広く報告されています [8]。

近年では本邦の多施設共同後ろ向き研究で放射線療法とタキサン系抗がん剤を併用した化学放射線療法(CRT)が手術+放射線療法群より予後良好と報告され、CRTが原発巣に対する根治的治療の主軸となりつつあります [8]。パクリタキセル(PTX)が本邦で唯一血管肉腫の病名で保険適用を取得しており、第一選択薬として用いられます [8]。照射線量は70Gyを目標とすることが妥当とされます [8]。

近年は新規薬剤としてpazopanib、eribulin、trabectedinが軟部肉腫治療薬として保険適用となり、PTX抵抗例の二次治療として検討されています [8]。免疫チェックポイント阻害薬の有効性も症例報告レベルで蓄積されつつあります [8,9]。

注意すべき点

  • 高齢者頭皮の難治性紅斑・紫斑は血管肉腫の除外を――打撲痕・脂漏性角化症の出血・老人性紫斑として漫然と経過観察しない [8,9]
  • 放射線照射部位・慢性リンパ浮腫部位に新規に出現する紫紅色斑、特に乳癌術後放射線療法後の胸部紫斑 [8,9]
  • 本邦では大型病変として診断される症例が多く [8]、欧米と比べて予後が悪い要因の一つと推察されている [8]――皮膚科外来での早期捕捉が極めて重要

皮膚科診療でのポイント

  • 三層分類の「悪性群」に属するという認識を出発点に、生検閾値を下げる
  • 早期診断が予後を大きく左右する数少ない皮膚悪性腫瘍の一つとして、頭部紅斑の鑑別に組み込む
  • 治療は集学的アプローチを要するため、診断確定後は速やかに治療に繋げる

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5. カポジ肉腫(Kaposi sarcoma)

ISSVA分類境界型血管腫瘍(borderline)に分類 [1,2]。悪性群の血管肉腫とは明確に区別される
原因カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(KSHV、別名HHV-8)感染が原因。KSHV感染と宿主免疫の障害の組み合わせで発症する [10]
4つの臨床病型古典型(地中海・ユダヤ系の高齢男性、下肢に緩徐な経過)/② 地方流行型(サブサハラ・アフリカ、リンパ節型を含む)/③ 医原性型(移植後など免疫抑制下)/④ AIDS関連型(HIV感染に関連し、免疫不全を背景に発症する病型) [10]

疫学

世界的な発症地理はKSHVの血清有病率を反映しており、サブサハラ・アフリカでは成人の90%超、地中海で20〜30%、北欧・アジア・米国では10%未満です [10]。1980年代以降のHIV/AIDS流行で発症数は急増しましたが、抗HIV療法(ART)の普及により先進国でのAIDS関連カポジ肉腫の発症率は大きく低下しました [10]。移植後の医原性カポジ肉腫の発症率は一般人口の約200倍とされます [10]。

典型的な臨床像

すべての臨床病型に共通する皮膚病変の特徴は多発性で、有色(紫紅色〜暗赤色)、隆起性または平坦、無痛性、圧迫で退色しない(non-blanching)結節・斑です [10]。初期病変は淡桃色から鮮紫色まで色調幅があり、無症状で innocuous-looking な色素斑または小丘疹として出現します [10]。体幹の大きな局面では皮膚溝に沿った長楕円形の分布をとることが知られています [10]。進行すると外向性・潰瘍性で出血性の結節を形成し、疼痛を伴う浮腫を合併することもあります [10]。

AIDS関連型では口腔病変(口蓋・歯肉)が高頻度で、嚥下障害や二次感染を引き起こすことがあります [10]。地方流行型ではHIV感染の有無にかかわらず小児・若年成人のリンパ浮腫を伴うことが多いとされます [10]。内臓病変は肺・消化管に生じうるが、カポジ肉腫における内臓病変は皮膚・粘膜病変のない単独例は稀(AIDS関連型で診断時の内臓病変は約15%)であり、症状がない患者にルーチンの内臓スクリーニング(CT・気管支鏡・内視鏡)を行うことは推奨されません [10]。

診断のポイント

臨床的に疑った場合は必ず生検による組織学的確認を行います。経験豊富な臨床医でも視診のみでは誤診しうるためです [10]。病理組織は病期に応じて以下のように分類されます [10]:

  • macule/patch期:真皮の血管周囲リンパ球・形質細胞浸潤、赤血球漏出、ヘモジデリン含有マクロファージ。鑑別が最も難しい時期
  • plaque期:真皮全層にびまん性の血管浸潤と紡錘形細胞の集簇
  • nodule期:膠原線維を置換するシート状の紡錘形細胞増殖、ハニカム様の血管腔とハイアリン小球(hyaline globule)

免疫染色では血管内皮マーカーであるCD34に加え、リンパ管内皮マーカー(podoplanin、LYVE1、VEGFR3)も陽性となることが多く、カポジ肉腫の紡錘形腫瘍細胞がリンパ管内皮または再プログラム化された脈管内皮に由来する可能性が示唆されています [10]。KSHV LANA(latency-associated nuclear antigen)に対する免疫染色は核に明瞭な点状パターンを示し、診断確定に決定的な所見となります [10]。

治療

免疫抑制が可逆的な病型(AIDS関連型・医原性型)では免疫機能の改善が第一選択です [10]:

  • AIDS関連型:T0早期病変ではART開始のみで6〜12か月以内に約80%が奏効、以後10年間追加治療を要さないとされる [10]
  • 医原性型:免疫抑制剤の減量・変更、特にカルシニューリン阻害薬からPI3K-AKT-mTOR経路阻害薬(シロリムスなど)への変更が有効。ただし移植患者では拒絶リスクへの配慮が必要 [10]
  • T1進行期AIDS関連カポジ肉腫リポソーマルアントラサイクリン(pegylated liposomal doxorubicinなど)の単剤化学療法が従来の併用化学療法より有効と複数のランダム化比較試験で示されている [10]
  • 古典型:限局性・無症状病変は経過観察、下肢浮腫には弾性ストッキング、症状を呈す病変には局所療法・全身療法(AIDS関連型に準じる) [10]

注意すべき点

  • 移植後・免疫抑制下患者の皮膚紫紅色病変はカポジ肉腫を鑑別に [10]
  • 口腔粘膜病変・呼吸器症状・消化管症状の合併は内臓型を疑う契機 [10]

皮膚科診療でのポイント

  • 皮膚所見は背景疾患のサインでもある――皮膚科医が最初にカポジ肉腫を疑うことで、HIVや免疫不全の診断につながる場面がある [10]
  • 診断は組織+LANA免疫染色で確定し、治療は背景病態の評価とともに感染症内科・移植医・腫瘍内科との連携を取る

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おわりに

「赤い腫瘤を見たとき、私たちはどこまで”血管腫”という言葉で済ませてよいのでしょうか」――この問いに対するISSVA分類の答えは明快です。まず「腫瘍」か「奇形」か、腫瘍ならば「良性/境界型/悪性」のどこに位置するか。この二段階の仕分けが、その後の検査・治療・予後説明のすべての出発点になります。

乳児血管腫と先天性血管腫は、生下時の完成度・生後の増殖・自然退縮のパターン・GLUT-1という四つの軸で対比的に理解できます。化膿性肉芽腫は古い病名のままに「肉芽腫」と片付けず、ISSVA上の良性血管腫瘍――BRAF/RAS変異を担う真の腫瘍――として再確認する。血管肉腫は高齢者頭部の紅斑・紫斑を見たときの鑑別に挙げる。カポジ肉腫は「境界型」の意味を踏まえて背景疾患の評価まで結びつける――これらが日々の診療で活きる実践的視点ではないでしょうか。

ここまでお読みいただきありがとうございます。この記事が皆様の今後のお役に立てれば幸いです。それでは。


余白ノート

血管腫という語の紛らわしさもあり、脈管系腫瘍と脈管奇形の知識を整理することは中々難しく思ってしまいます。ISSVA分類で挙げられる疾患名も多く、ついつい整理することが億劫になりがちなこともあり、一度記事にまとめてみようと思いました。

ISSVA分類の表自体もさまざまなレベルで分類されており、それぞれの概念がどのレベルなのかを確認しづらいように思います。今回はクリック一つで分類の上流、下流に移り、中でも代表疾患についてはその解説に移れるようにしてみました。解説付きの疾患を多くしてより使いやすくしたいという思いがありついつい記事の分量を増やしてしまいました。


参考文献

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  3. 血管腫・脈管奇形・血管奇形・リンパ管奇形・リンパ管腫症 診療ガイドライン2022 第3章-2 総説(各論)1-1. 乳児血管腫(infantile hemangioma). 一般社団法人日本血管腫血管奇形学会編. 2022.
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  8. 藤澤康弘, 吉岡靖生, 吉野公二, ほか. 皮膚血管肉腫診療ガイドライン2025. 皮膚がん診療ガイドライン第4版. 公益社団法人日本皮膚科学会/一般社団法人日本皮膚悪性腫瘍学会. 日皮会誌. 2025;135(3):557-603.
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