その頭痛、皮疹の痛みでしょうか――外来で帯状疱疹髄膜炎を見逃さないための3つの確認
症状――発熱・頭痛・嘔吐を能動的に問診する。皮疹出現後、とくに約1週間は再診時にも確認する。
背景――頭頸部の皮疹では疑いの閾値を下げ、免疫抑制・汎発疹を確認する。免疫正常でも除外しない。
行動――髄膜刺激徴候や発熱がなくても、それだけで除外しない。髄膜炎の併発が疑われたら髄液検査が可能な施設への紹介を検討する。[1][2][4][6][7][9][10]
はじめに
帯状疱疹(herpes zoster)の再診で、「そういえば数日前から頭が痛くて」と患者さんが口にする場面があります。三叉神経領域の帯状疱疹であれば、その頭痛を皮疹に伴う痛みと考えるのは自然な解釈でしょう。しかし、その解釈で本当によいのか――一度立ち止まって考えることが、本稿のテーマである帯状疱疹髄膜炎(herpes zoster meningitis)を見逃さないための出発点になります。
帯状疱疹は皮膚科外来でしばしば遭遇する疾患ですが、その合併症である髄膜炎は、後で見るように「髄膜炎らしい」姿では現れないことが少なくありません。本稿では、網羅的な所見集ではなく、外来の限られた診察時間のなかで実行できる3つの確認――症状・背景・行動――に絞って整理します。
帯状疱疹の中枢神経合併症
まず、帯状疱疹の合併症のなかでの髄膜炎の位置づけをおさらいします。日本皮膚科学会の帯状疱疹診療ガイドライン2025は、中枢神経系合併症として「無菌性髄膜炎,脳炎,脊髄炎」を挙げ、無菌性髄膜炎(aseptic meningitis)は予後がよい一方、脳炎(encephalitis)が生じた場合は予後が悪いと位置づけています[1]。ここで用語を整理しておくと、水痘・帯状疱疹ウイルス(varicella zoster virus: VZV)の再活性化による髄膜炎は、髄液の一般細菌培養が陰性となる無菌性髄膜炎の一型として扱われます。本稿では、このVZVによる髄膜炎を帯状疱疹髄膜炎と呼びます。
どのくらいの頻度で起こるのでしょうか。帯状疱疹約13,000例を含むスウェーデンの人口ベースコホートでは、髄膜炎の合併は**0.14%**でした[5]。著者ら自身が、診断コードに基づく集計のため実際より少なく見積もられている可能性に言及しています[5]。割合としてはまれです。しかし、帯状疱疹という疾患の外来患者数、つまり分母の大きさを考えると、「まれだから考えなくてよい」とは言いにくい数字ではないでしょうか。
一方、髄膜炎の側から見ると風景が変わります。デンマークの全国前向き研究では、成人ウイルス性髄膜炎(viral meningitis)1,066例のうち15%がVZVによるものでした[4]。皮膚科外来から見ればまれな合併症が、髄膜炎の診療現場から見れば主要な原因ウイルスのひとつなのです。この視点の往復が、外来で疑いを持ち続けるための動機づけになります。
もうひとつ押さえておきたいのが、皮疹との時間関係です。帯状疱疹に合併した無菌性髄膜炎を検討した韓国の単施設研究では、髄膜炎症状の出現は皮疹出現から平均5.3日後で、83.3%が6日以内に集中していました(発症までの幅は0〜30日)[10]。つまり、髄膜炎の症状は皮疹に遅れて現れる例が多く、初診時に異常がないことは、その後も起こらないことを意味しません。
では、帯状疱疹髄膜炎はどのような姿で現れるのでしょうか。デンマークの研究からVZV髄膜炎162例の臨床像を示します[4]。
| 症状・所見 | 頻度 |
|---|---|
| 頭痛 | 86% |
| 皮疹(帯状疱疹) | 60% |
| 発熱(病歴上) | 53% |
| 項部硬直 | 27% |
| 頭痛・項部硬直・光または聴覚過敏の三徴 | 17% |
注:単一の全国前向き研究[4]に基づく数値であり、項目により評価できた例数が異なる。「皮疹60%」は髄膜炎と診断された患者さん側から見た割合であり、帯状疱疹の患者さんに髄膜炎が合併する頻度(前述の0.14%)とは方向が異なる点に注意。
この表で目を引くのは、発熱・項部硬直・教科書的な三徴といった「髄膜炎らしさ」を欠く例が多いことです。発熱は約半数、項部硬直は3割弱、三徴が揃うのは17%にとどまります。年齢の中央値は46歳(四分位範囲27〜69歳)であり、比較的若い患者さんにも起こっています[4]。「発熱と項部硬直が揃ったら疑おう」という構えでは、この合併症を見逃す可能性があります。
外来で見逃さないための3つの確認
ここからが本題です。前節の「らしくなさ」を前提にすると、外来での戦略は「髄膜炎らしさを待つ」ことではなく、「らしさがなくても、少数の確認を毎回行う」ことになります。以下の3つの確認は、診察の時系列(症状を聞く→背景を評価する→行動を決める)に沿って並べています。あらかじめお断りしておくと、この3つは見逃しをゼロにする保証ではなく、疑いの閾値を下げるための最小セットです。個々の症例では、ここに挙げていない要素が判断を左右する場合もあります。
確認1: 症状
出発点は、国内ガイドラインの治療総論にある次の一文です。
入院しての点滴治療を考えるべき状態として,重症化や合併症発症の可能性が高いと考えられる高齢者および免疫不全状態の患者,汎発疹がある患者,疼痛や皮膚病変が重症の場合,腎機能低下がある場合,発熱,頭痛,嘔吐など肺炎や髄膜炎の併発が疑われる場合などがあげられる[1]。(強調は投稿者)
入院を考慮する文脈で書かれたこの一文は、裏を返せば、外来で発熱・頭痛・嘔吐を確認することが、髄膜炎の併発に気づく第一歩になると読めます。前節の表のとおり、VZV髄膜炎では頭痛が86%と最も頻度の高い症状です[4]。だからこそ、頭痛の訴えを「皮疹の痛みの一部だろう」と引き寄せて解釈せず、独立した症状として扱う姿勢が要になります。
問診のタイミングも重要です。前述のとおり、髄膜炎症状の多くは皮疹出現から6日以内に現れます[10]。初診時に何もなくても、皮疹出現後、とくに約1週間は、再診のたびに発熱・頭痛・嘔吐を能動的に問診することをおすすめします。処置や外用指導で完結しがちな再診にこそ、この問いを組み込む意味があります。この「約1週間」は注意を強める目安であり、それを過ぎた後に現れた症状を軽視してよいという意味ではありません。
一方で、帯状疱疹の急性期には皮疹部の痛みや倦怠感を伴うことも多く、すべての頭痛で精査に進むわけにはいきません。どの頭痛で一歩踏み込むか――この線引きを直接定めた基準は確認できていません。そのうえで、皮疹部の痛みとして説明しにくい頭痛(皮疹から離れた部位の頭痛、皮疹の経過と乖離して増悪する頭痛)や、嘔吐・光過敏など他の髄膜炎症状を伴う場合[1][4]には、髄膜炎の併発をより積極的に鑑別に挙げることを検討してよいと考えられます。この手がかりは疑いを一段引き上げるためのものであり、該当しないことを除外の根拠にはできない点にもご注意ください。
なお、こうした能動的問診によって髄膜炎の見逃しが減ることを直接検証した研究は確認できていません。ここで提案しているのは、複数の報告から組み立てた診察上の工夫であることを申し添えます。
確認2: 背景
国内ガイドラインには、発症部位から合併症の危険性を推測し、早めに専門領域へコンサルテーションを行うという考え方が示されています(例示されているのは眼部や耳部などの合併症です)[1]。髄膜炎について、この「部位」に相当する候補が頭頸部です。
帯状疱疹578例を検討した韓国の単施設後方視研究では、帯状疱疹に合併した無菌性髄膜炎24例のうち87.5%が頭頸部の皮疹分布であり、頭頸部の皮疹は髄膜炎合併と関連していました(調整オッズ比5.7)[10]。免疫機能の正常な患者さんを集めた中国のVZV中枢神経感染108例の報告でも、皮疹を認めた51例のうち30例が三叉神経領域(いずれも第1枝領域)でした[6]。日本の1施設からのVZV髄膜炎29例の集積でも、58.6%が三叉神経領域の皮疹でした[9]。いずれも単施設の報告であり確定的なものではありませんが、方向は一致しています。顔面・頭部・頸部の帯状疱疹を診たときには、髄膜炎という合併症を意識する閾値を一段下げておきたいところです。
免疫抑制状態と汎発性(播種性)帯状疱疹(いわゆる汎発疹)は、髄膜炎に特異的なリスク因子というより、重症化や合併症を考えるうえで押さえておくべき背景です。いずれも国内ガイドラインで、重症化や合併症発症の可能性を踏まえて入院を考慮する対象に挙げられています[1]。また、国立感染症研究所のファクトシートは、免疫不全のある患者さんでは帯状疱疹の発症および重症化のリスクが高まるとしています[2]。
ただし、ここで強調したいのは逆方向の注意です。「免疫が正常だから髄膜炎は考えなくてよい」とはなりません。デンマークの研究では、VZV髄膜炎162例のうち免疫抑制状態にあった患者さんは20%――つまり約8割は免疫抑制のない患者さんでした[4]。免疫正常者を対象とした中国の集積でも、VZV中枢神経感染108例が報告されています[6]。「免疫抑制は帯状疱疹の重症化や合併症を考える背景になる」と「免疫正常なら髄膜炎を除外できる」は別の命題です。
確認3: 行動
3つ目の確認は、疑ったあとの行動です。ここで妨げになるのが、「髄膜刺激徴候がないから」「熱がないから」という安心です。
髄膜炎全般を対象としたメタ解析では、感度は項部硬直46.1%、jolt accentuation 52.4%、Kernig徴候22.9%、Brudzinski徴候27.5%と報告され、髄膜炎の患者さんの約半数は典型的な髄膜刺激徴候を呈さない可能性が指摘されています[7]。VZV髄膜炎に限ると、この傾向はさらに顕著です。項部硬直は27%[4]、徴候の陽性も37.9〜43.8%と報告されており[6][9]、いずれの報告でも半分に届きません。発熱も41〜64%にとどまります(発熱の定義や対象集団は報告により異なります)[4][6][9]。髄膜刺激徴候や発熱がないことを、髄膜炎を除外する根拠にしない――これが3つの確認の到達点です。
髄液検査の結果にも、同じ構造の注意があります。米国感染症学会(IDSA)の脳炎ガイドラインは、髄液VZV-PCRが陰性でも診断を除外できないとしています(脳炎を対象としたガイドラインの記載であり、髄膜炎へそのまま外挿できるわけではない点には留保が必要です)[8]。また、日本の単施設集積では、細胞数・蛋白などの通常髄液検査が正常のままVZV-PCRが陽性であった例が29例中4例あり、その全例が三叉神経領域の皮疹と頭痛を認める一方、発熱や髄膜刺激徴候を欠いていました[9]。徴候・発熱・髄液細胞数のいずれについても、単一の「陰性」のみをもって帯状疱疹髄膜炎を否定することはできないのです。
では、疑ったらどう動くか。髄液のVZV検査は、検査法によって保険診療上の扱いが異なります。単純疱疹ウイルス・水痘帯状疱疹ウイルス核酸定量は、対象が免疫不全状態の患者さんなどに限定されています[2]。国立感染症研究所のファクトシートは、髄膜炎・脳炎ではVZVを含むFilmArray髄膜炎・脳炎パネルを保険診療で利用できるとしています[2]。免疫正常であることのみで髄膜炎を除外せず[4][6]、疑わしい場合には、実施可能な検査と紹介先を確認することが重要です[1]。
外来皮膚科で髄液検査まで完結できない場合には、次の行動をあらかじめ決めておきたいところです。髄膜炎の併発が疑われる場合は、経過観察のみにせず、髄液検査が可能な施設への紹介を検討し、状況に応じて入院を考慮することです。国内ガイドラインも、髄膜炎の併発が疑われる場合を、入院しての点滴治療を考えるべき状態に挙げています[1]。検査も治療も自施設で完結しないことは、行動をためらう理由ではなく、早めに紹介を考える理由になります。
診察前に思い出したいポイント
ここまでの内容を踏まえ、帯状疱疹の外来診察(初診・再診)の前に思い出したいポイントを挙げます。
- 発熱・頭痛・嘔吐: 訴えを待たず、能動的に問診する[1][4]
- 発症後の時間経過: 皮疹出現後、とくに約1週間は再診時にも同じ問診を繰り返す。期間を過ぎても新たな症状を軽視しない[10]
- 頭頸部の皮疹: 髄膜炎との関連を示唆する報告が複数あるため、疑いの閾値を下げる[6][9][10]
- 免疫抑制・汎発疹: 重症化や合併症、入院の必要性を考える背景として確認する[1][2]
- 免疫正常でも除外しない: 報告ではVZV髄膜炎の約8割が免疫抑制のない患者さんに起こる[4]
- 「陰性」の扱い: 髄膜刺激徴候・発熱の陰性を除外の根拠にしない[4][7][9]
- 紹介の判断: 髄膜炎の併発が疑われたら、髄液検査が可能な施設への紹介・入院を検討する[1][2]
これらはルーチンとして機械的に並べる項目ではなく、ひとつずつが「この患者さんで髄膜炎を見逃していないか」という問いとして機能します。
落とし穴
最後に、3つの確認を知っていてもなお残る、見逃しの構造に触れておきます。
第一の落とし穴は、頭痛の誤帰属です。冒頭の場面に戻りましょう。帯状疱疹には皮疹部の痛みがつきものであり、三叉神経領域であれば頭部の痛みも「皮疹の痛みの一部」「痛みで眠れないせいの頭重感」と説明づけられてしまいます。もっともらしい説明がつくことが、見逃しにつながる一因になりえます。デンマークの研究では、VZV髄膜炎は入院から腰椎穿刺までの時間の中央値が6.2時間と、他の主要なウイルス性髄膜炎(約2時間)より長いことが報告されています[4]。この研究ではVZV髄膜炎で髄液検査への移行が相対的に遅かったものの、その原因が頭痛の誤帰属だったとは断定できません。
第二の落とし穴は、皮疹という手がかりそのものの限界です。VZVの再活性化は、皮疹を伴わないまま起こることがあり、zoster sine herpete と呼ばれます。中枢神経病変についても、皮疹を伴わずに生じうることが知られています[3]。髄膜炎の側から見た研究でも、皮疹を認めたのは60%でした[4]。本稿の3つの確認は「帯状疱疹と診断できている患者さん」を前提にしており、皮疹がない例や皮疹より先に髄膜炎症状が出る例までは拾えません。この3つの確認では捉えられない例があることも、頭の片隅に置いておきたい事実です。
おわりに
帯状疱疹髄膜炎は、発熱や髄膜刺激徴候といった「髄膜炎らしさ」を待っていると見逃しうる合併症です。だからこそ本稿では、症状(発熱・頭痛・嘔吐を能動的に問診する)、背景(頭頸部の皮疹では疑いの閾値を下げ、免疫抑制・汎発疹を確認しつつ、免疫正常でも除外しない)、行動(「陰性」で除外せず、髄膜炎の併発が疑われたら髄液検査が可能な施設への紹介を検討する)の3つを、外来診察のルーチンに織り込むことを提案しました。繰り返しになりますが、この3つは見逃しをゼロにする保証ではなく、疑いの閾値を下げるための最小セットです。
ありふれた疾患の診療でも、まれな合併症を疑う契機はあります。帯状疱疹髄膜炎は、そのことを静かに思い出させてくれる合併症なのかもしれません。
ここまでお読みいただきありがとうございます。この記事が皆様の今後のお役に立てれば幸いです。それでは。
余白ノート
zoster sine herpete という言葉を調べるなかで、この概念の据わりの悪さのようなものが頭に残りました。直訳すれば「疱疹のない帯状疱疹」。皮疹を診ることを出発点とする皮膚科医にとって、手がかりであるはずの皮疹そのものが欠けうるという、少し不思議な病名です。本文でも触れたとおり、Nagelらの総説は、VZV再活性化による中枢神経疾患が皮疹を伴わずに起こりうることを繰り返し注意しています[3]。皮膚科外来では、皮疹という手がかりがないまま診断に迫るのは容易ではありません。それでも、「皮疹がないから帯状疱疹ではない」という素朴な等式が成り立たない場面があると知っておくことは、私たちが日々診ている皮疹という所見の重みを、裏側から再確認することでもあるように思います。
参考文献
- 浅田秀夫,今福信一,渡辺大輔,ほか(帯状疱疹診療ガイドライン策定委員会):帯状疱疹診療ガイドライン2025.日皮会誌 2025; 135(3): 527-556. DOI: 10.14924/dermatol.135.527
- 国立感染症研究所:帯状疱疹ワクチン ファクトシート(第2版、2024年6月20日改訂、2024年11月1日一部修正).https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001328116.pdf
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