「病変の周りから採って」と言われたとき、どこまでが根拠でどこからが慣習か
必須――生検は診断確定に必須であり、HE用・DIF用・血清の3つを同じ受診回で揃える。
部位――DIF用は、新しい水疱の縁から3〜10 mm離れた、水疱になっていない紅斑部または正常に見える皮膚から採る。HE用は別の検体として、新しい水疱そのものから採る。
限界――「病変の周り」の定義も距離もガイドラインごとに異なり、直接比べた報告の結論も割れている。それでも、部位を決めかねて採取を先送りする理由にはならない。
[1][2][3][4][5][6]
はじめに
外来で、緊満性の水疱とびらんを診ています。自己免疫性水疱症(autoimmune bullous diseases: AIBD)を疑って上級医に相談すると、「病変の周りから採って、蛍光抗体直接法(direct immunofluorescence: DIF)も出しておいて」と言われました。
ここで手が止まります。周りとは、どのくらい離した場所でしょうか。ある教科書には1 cm以内と書いてあり、別のところには1〜2 cmとあります。水疱そのものは避けると教わりましたが、それはなぜでしょうか。下腿は避けろとも言われましたが、この患者さんは下腿にしか水疱がありません。
手順そのものより先に、その手順がどこから来たのかを知りたくなりました。調べてみると、この一行の指示の背後には、思っていたよりも厚みのある――そして思っていたよりも薄いところのある――層がありました。
本稿では、自己免疫性水疱症を疑ったときの検体の組み立て方を、次の順に取り上げます。まず、生検が診断確定に必須であるという、国内で動かない前提を確認します。次に、検体を3つに分ける意味を押さえたうえで、どこから採ればよいのかの結論を先に示します。そのうえで、その結論がどこまで根拠に支えられ、どこからが臨床慣習なのかを辿ります。最後に、血清が答えることと答えないこと、粘膜が皮膚と異なること、そして陰性だったときにどこで止まるかに触れます。
生検は診断確定に必須である
不確かな部分を扱う前に、動かない土台を先に置きます。
国内の診断基準は、いずれもA(症状)とB(検査所見)からなります。このうちBは、B-1として病理組織学的所見を、B-2として免疫学的所見――蛍光抗体直接法と、血清中の自己抗体――を挙げています[1][2]。
診断のカテゴリーを満たすには、病理組織学的所見と蛍光抗体直接法のうち、少なくともどちらか一方が必要です。この構造から、天疱瘡(pemphigus)診療ガイドラインは「皮膚あるいは粘膜の生検は診断確定には必須である」と明記しています[1]。類天疱瘡(pemphigoid)診療ガイドラインも同様に、「生検は診断確定に必須である」と述べています[2]。
つまり「疑ったら採る」は動きません。本稿でこれから扱う不確かさは、採るかどうかではなく、どこから採るかについてのものです。この区別を先に置いておきます。
なお天疱瘡では、指定難病の認定に用いられる診断基準が「表皮細胞間接着障害による表皮内水疱」となっていますが、粘膜症状が主体の症例を経験することもあり、その場合には「表皮あるいは粘膜上皮細胞間接着障害による、表皮あるいは粘膜上皮内水疱」と解釈して診断および治療を進める必要がある、と記されています[1]。認定のための文言と、臨床の実態との間には幅があるということです。
検体を3つに分ける
組織像だけでは、自己免疫性水疱症を確定できません。水疱が表皮内にあるのか表皮下にあるのかは組織で分かりますが、それが自己抗体によるものかどうかは、免疫学的な検査を組み合わせて初めて言えます。
表1 3つの検体は、それぞれ何に答えるか
| HE用(組織診) | DIF用 | 血清 | |
|---|---|---|---|
| 何を見るか | 水疱の位置と炎症細胞の構成 | 組織に結合した免疫反応物の沈着 | 循環している自己抗体 |
| 何が分かるか | 表皮内か表皮下か | 沈着の部位とパターン | 標的抗原と、その量的な指標 |
| どこから採るか | 新しい水疱そのもの | 水疱の縁から3〜10 mm離れた非水疱部 | — |
注:3つのうちどれか一つでは、診断のカテゴリーを満たしません。[3][4]
なお、皮膚からは組織診用とDIF用を別々に採ることが前提になっています[3][4]。1つの検体で両方を兼ねる形にはなっていません。
この2つは提出方法も異なります。同じ扱いで出すとDIFの判定ができなくなることがあるため、採取前に提出先の手順を確認しておきたいところです[3][4][7][8]。
別々の検査を並べているのではなく、一組で一つの診断を作っている——3つの検体は、そう考えるほうが実態に近いといえます。
どこから採るか
実務上の出発点
先に結論を書きます。以降は、その結論がどこから来ているのかを確かめる部分です。
- DIF用――新しい水疱を選び、その縁から3〜10 mm離れた、水疱になっていない紅斑部または正常に見える皮膚[3][4][7]から、4 mm程度のpunchで採る[7]
- HE用――別の検体として、新しい水疱そのものから採る。天疱瘡では、水疱の縁を1/3ほど含める採り方が示されている[3][4]
- 解剖学的な部位――ほかにも病変があれば体幹や前腕の屈側が選ばれることが多い[7]。ただし下腿にしか病変がなければ、下腿から採る[9][10][11]
「3〜10 mm」という幅には、説明が要ります。示されている数字は文献ごとに違うからです。水疱性類天疱瘡のガイドラインは病変から1〜2 cm以内[3]、天疱瘡のガイドラインは1 cm以内[4]、総説はおよそ3 mm離し10 mmを超えないこと[7]としています。
ここで下限を示しているのは総説だけです。2つのガイドラインは上限しか置いていません。そして総説の3〜10 mmは、いずれの上限の内側にも収まります。つまり総説の範囲で採れば、ガイドラインの記述からも外れません。3つの数字が一点に重なっているわけではなく、最も狭い範囲がほかを満たしている、という関係です。
もっとも、この範囲が最も陽性率が高いことを示した研究があるわけではありません。ここで選んでいるのは、どの記述にも反しない範囲にすぎない、という点は押さえておきたいところです。
検体の大きさについては、粘膜類天疱瘡のガイドラインが皮膚・粘膜とも最小3〜4 mmを推奨しており[12]、総説は4 mmのpunch生検を推奨される方法として挙げています[7]。
なお、この出発点は水疱性類天疱瘡と天疱瘡を想定したものです。疱疹状皮膚炎では紅斑部ではなく正常に見える皮膚が勧められており、好発部位から採るという条件も付くため、同じ形では当てはまりません[7][8]。
以降は、この出発点がどのような記述に支えられ、どこから先が支えられていないのかを見ていきます。
なぜ、採る場所が違うのか
HE用とDIF用で採る場所が違うのは、二つの検査が見ようとしているものが違うからです。
組織診が答えるのは、水疱が表皮の中にあるのか、表皮の下にあるのかという問いです[1][2]。裂隙そのものを顕微鏡で確かめて判定する以上、標本の中に水疱が入っていなければ答えが出ません。欧州のガイドラインがいずれも新しい水疱そのものを採るよう示しているのは、このためです[3][4]。
一方、DIFが答えるのは、免疫反応物がどこに沈着しているかという問いです。天疱瘡では表皮・粘膜上皮細胞の細胞膜(間)部、類天疱瘡では表皮基底膜部が、その「どこ」にあたります[1][2]。つまり、沈着を見たい構造が、標本の中に保たれている必要があります。
ここで問題になるのが、水疱部ではすでに表皮と真皮が離れているという事実です。総説は、水疱にかかる採り方を誤ると、表皮が真皮から完全に剥離してしまい、評価そのものが損なわれうると述べています[7]。表皮が脱落してしまえば、細胞間も基底膜部も、見る対象ごと失われます。
ここから先は、個々の記述ではなく、それらを並べたときに見える整理です。同じ壊れやすさに対して、二つの検査は逆の対処をしていると読めます。
組織診は裂隙を見なければならないので、水疱を採ったうえで屋根が外れないようにする。疱疹状皮膚炎のガイドラインが、大きな水疱を組織診のために生検する場合に周囲の皮膚を検体の1/4ほど含めるよう勧めているのは、まさにこのためです[8]。天疱瘡のガイドラインが示す「水疱の縁1/3+周囲2/3」は配分の理由を述べていませんが、同じ考え方の配分と読むこともできそうです[4]。
DIFのほうは、裂隙を見る必要がありません。水疱を含めなければならない理由がなく、むしろ表皮が離れていない場所のほうが、沈着を見たい構造が保たれています。総説も、水疱性類天疱瘡についてDIF用の検体は伝統的に病変周囲皮膚から採られ、活動性の水疱の中心部と、一度も病変が生じていない遠隔部位は避けられてきたと記しています[7]。
ここまでで説明がつくのは、水疱そのものを避ける理由までです。「病変部では免疫反応物が分解されてしまうから」という説明を耳にすることがありますが、この説明は欧州の主要なガイドラインには見あたりません。分解という言葉が用いられているのは、遺伝性の表皮水疱症(epidermolysis bullosa)や血管炎(vasculitis)についての文脈でした[7]。
そして、なぜ病変から遠く離れた部位も避けるのか、なぜ3 mmや10 mmという距離なのかについては、ガイドラインにも総説にも説明が置かれていません。総説自身、距離は恣意的に用いられることがあると述べており、天疱瘡群についてはこの数値を「慣習(convention)」と呼んでいます[7]。採取部位をめぐる指示は、機序で説明しきれる部分と、慣習として受け継がれてきた部分の両方でできている——そう捉えておくのが正確でしょう。
国内の診断基準が書いていること
天疱瘡の診断基準は、蛍光抗体直接法の項をこう書いています。
蛍光抗体直接法により,病変部ないし外見上正常な皮膚・粘膜部の細胞膜(間)部にIgG(ときに補体)の沈着を認める.
(強調は投稿者)[1]
読み直すと、ここに書かれているのは「病変周囲」ではありません。「病変部」か、「外見上正常な皮膚・粘膜部」かという二択です。病変から何センチ離すという話ではなく、病変そのものでもよいと読めます。
では類天疱瘡の診断基準はどうかというと、こちらは「蛍光抗体直接法により、皮膚の表皮基底膜部にIgG、あるいは補体の沈着を認める」とあるだけで、採取部位への言及がありません[2]。天疱瘡では二択が示され、類天疱瘡では示されていません。同じ国の、同じ枠組みの基準で、記述の粒度が違っています。
もっとも、これは不備というより性格の違いでしょう。診断基準は「何を満たせば診断か」を定めるものであって、検体をどう採るかの手順書ではありません。手順を知りたければ、別の場所を見にいく必要があります。
欧州のガイドラインが書いていること
その別の場所が、欧州のガイドラインです。
水疱性類天疱瘡のガイドラインは、DIF用検体を病変周囲皮膚(perilesional skin)から得ることを推奨し、これを紅斑性の非水疱部、または病変から1〜2 cm以内の正常皮膚と定義しています[3]。ここで注意したいのは、この「病変周囲皮膚」と、先ほどの国内基準の「病変部ないし外見上正常な皮膚・粘膜部」は、同じものを指していないということです。前者は病変からの距離で範囲を切り、後者は病変部か正常部かという性状で分けています。訳語が似ているために同じに見えますが、枠組みが違います。
HE用については、同ガイドラインは紅斑上に生じた早期の水疱から採る、としています[3]。
一方、天疱瘡のガイドラインは、DIF用を病変から1 cm以内とし、HE用については次のように述べています――発生から24時間以内の小水疱、または水疱の辺縁1/3と病変周囲皮膚2/3を含む3〜5 mmのpunch[4]。言い換えると、punchの大部分が水疱の外側の皮膚に載り、辺縁だけが水疱にかかる形です。
ここで、頭の中の整理をひとつ崩しておく必要があります。「HE用は病変部から、DIF用は病変周囲から」と覚えたくなりますし、天疱瘡のガイドライン自身も推奨の一覧ではその二分法を掲げています。しかし具体的な採り方まで読むと、天疱瘡ではHE用の検体自体が病変周囲を2/3含みます[4]。掲げられた二分法と、実際の採り方の記述の間にはずれがある、ということです。
数字が揃わない
総説では、水疱の縁からおよそ3 mm離し10 mmを超えない、という記述もみられます[7]。1〜2 cm、1 cm以内、3〜10 mm――距離の指定は文献ごとに異なります。
そのうえ、何を基準に測るのかも揃っていません。欧州の2つのガイドラインは「病変から」の距離を示し、総説は「水疱の縁から」の距離を示しています。さらに水疱性類天疱瘡のガイドラインは、本文では距離を正常皮膚に係らせているのに対し、表では紅斑部に係らせており、同じ文書のなかでも係り先が一定していません[3]。
そして、この不揃いは偶然ではないようです。総説の著者自身が、病変や水疱からの距離は恣意的に用いられることがあり、参照する文献によって異なる数字が引かれていると述べています[7]。
表2 誰が、どこから採れと言っているか
| HE用 | DIF用 | 示された距離 | 文書の性格 | |
|---|---|---|---|---|
| 天疱瘡診断基準(国内) | 表皮・粘膜上皮内水疱を認めること(部位の指定なし) | 病変部ないし外見上正常な皮膚・粘膜部 | — | 診断のための基準。手順書ではない |
| 類天疱瘡診断基準(国内) | 表皮下水疱を認めること(部位の指定なし) | 記載なし | — | 同上 |
| 水疱性類天疱瘡ガイドライン(欧州) | 紅斑上に生じた早期の水疱 | 病変周囲皮膚(紅斑性非水疱部、または正常皮膚) | 1〜2 cm | コンセンサスに基づく文書 |
| 天疱瘡ガイドライン(欧州) | できれば24時間以内の小水疱、または水疱の辺縁1/3+周囲2/3 | 直近の病変の周囲の皮膚・粘膜 | 1 cm以内 | 同上 |
| 総説 | — | 病変周囲の紅斑部または非病変部、非水疱性の病変部、または水疱の辺縁(周囲2/3+病変1/3) | 3〜10 mm | 単著の総説 |
注:基準点は文献ごとに異なり、ガイドラインは「病変から」、総説は「水疱の縁から」の距離を示している。[1][2][3][4][7]
この表を縦に見ると、どこから採るかについて言っていることは、文書ごとに違います。しかし横に見ると、そもそも国内の診断基準は、この問いに答える種類の文書ではありません。私たちが「病変の周りから」と教わってきた内容の出所は、国内のガイドラインではなく、欧州のガイドラインか、あるいはそれを引いた総説だということになります。
その根拠は、どこまで確かか
ここから扱う不確かさは、検体を組み立てるうえで決めることのうち、「DIF用の採取部位」の一点に限られます。生検の必要性と、血清を併せて出すことについては、この後も揺らぎません。
推奨の性格と、その根拠
まず、欧州のガイドラインがどういう種類の文書かを確認しておきます。
自己免疫性水疱症に関する欧州のガイドラインは、粘膜類天疱瘡のものを除き、いずれもコンセンサスに基づいて作られた文書(S2k)です[3][4][8][12]。系統的にエビデンスを評価して推奨度を格付けする形式ではなく、専門家の合意によって推奨の強さを定める形式です。
ここで、水疱性類天疱瘡のガイドラインが自ら定めている書き分けを見ておきます。推奨の強さをどの動詞で表すかは、ガイドラインごとに定め方が異なります。同ガイドラインは、推奨の動詞をエビデンスレベルに紐づけており、「is recommended(推奨される)」は、大規模なランダム化前向き多施設研究(エビデンスレベル1)に基づく強い推奨に割り当てられています。以下、小規模な研究や大規模な後ろ向き多施設研究であれば「may be recommended」、症例集積や小規模な単施設の後ろ向き研究であれば「may be considered」となります[3]。
そのうえで、推奨文の末尾に付いている数値の読み方にも注意が要ります。病変周囲皮膚から採るという推奨には「4.75 ± 0.53」という数値が添えられています[3]。これはタスクフォースの合意度であって、推奨度でもエビデンスレベルでもありません。高い数値を見て「エビデンスが強い」と読むと、根拠の性質を取り違えることになります。
さて、その病変周囲皮膚の推奨は、「It is recommended」――先ほどの書き分けでは、大規模ランダム化前向き多施設研究に基づく強い推奨に割り当てられた文言――で書かれています[3]。では、そこに付されている引用文献は何本でしょうか。
1本だけです[3]。2020年に発表された前向き研究ですが、これは学術誌のレターとして公表されたもので、その内容がガイドラインの本文に展開されているわけでもありません。
直接比べた報告は、結論が割れている
では、実際に部位を比べた研究は何を示しているのでしょうか。
1990年の報告では、尋常性天疱瘡(pemphigus vulgaris: PV)などを含む患者さんごとに複数の部位を生検して比較し、病変周囲皮膚では治療開始前の検体で78%、開始後の検体で83%が陽性でした。この報告は、単一の病変周囲生検で通常は十分であり、2つを超える生検が正当化されることはまれであると結論しています[5]。
一方、1,423件のDIF検体を後ろ向きに調べた2014年の報告は、逆向きの結果を出しています。水疱性類天疱瘡が疑われた検体を、病変部・病変周囲・判別不能に分けたところ、陽性は病変部で50%、病変周囲で22%、判別不能で12%でした。病変部と病変周囲を比べたオッズ比は3.45(95%信頼区間 1.44〜8.29)です[6]。
この結果の読み方には、いくつか注釈が要ります。ここでいう「病変部」は非水疱性の病変部であり、水疱そのものではありません。また分母は「水疱性類天疱瘡が疑われた検体」であるため、これは陽性率であって感度ではありません。この報告をもって「病変部から採ればよい」と言えるわけではありません。
そして、この不一致には方法論上の背景があります。総説は、報告ごとに病変部と病変周囲の定義が標準化されておらず、実際にどこが採られたのかは依頼書の記載に依存するため、かなりのばらつきが持ち込まれていると指摘しています。日常の病理診断では、病変周囲として提出された検体が実際には病変部であったり、その逆であったりすることも珍しくない、とも述べています[7]。
同じ総説はもう一点、より根本的なことを指摘しています。採取部位に関して得られている情報の多くは水疱性類天疱瘡の患者さんを対象とした研究に基づいており、そこで確立した推奨が、病態のまったく異なる他の水疱症へ適用されている、というものです[7]。採取部位の考え方は、疾患群ごとに異なりうるということでしょう。
なお、この問いを扱った系統的レビューは、皮膚については報告されていないようです。口腔粘膜については2本ありますが、結論は一つに収束していません[13][14]。中身は粘膜の章で見ます。
これは「まだ誰も調べていない」のではなく、臨床の集積が、後ろ向きの検討と専門家の合意という水準にとどまっているということだといえます。
「下腿は避ける」はどこから来たのか
もう一つ、広く共有されている指示があります。下腿からは採らないほうがよい、というものです。
起点は1985年の報告です。46例を解析し、下腿から採られた検体の3分の1が陰性だったのに対し、他の部位では3%にとどまった、というものでした。この報告は、免疫蛍光の生検部位として下腿はおそらく避けるべきである、と結んでいます[9]。
ところが、同じ著者が1989年にこの結論を再評価しています。全身性の水疱性類天疱瘡8例を前向きに評価し、体幹と下腿から重複して検体を採ったところ、染色強度は概ね同等でした。さらに36例の後ろ向き解析では、染色強度は病変の広がりとおおむね相関しており、特定の解剖学的部位とは相関していませんでした[10]。
ただし同じ報告は、もうひとつの結論も述べています。限局型の水疱性類天疱瘡では、全身型に比べてDIFの診断的な有用性が低い、というものです[10]。効いているのは解剖学的な部位ではなく、病変の広がりのほうだ、という整理になります。
2021年の後ろ向き報告も、部位については同じ方向です。水疱性類天疱瘡79例で偽陰性率を部位別に見たところ、下腿10%、体幹4%、上肢3%で、部位による有意差はありませんでした。この報告自身が、下腿の偽陰性率が高いという見方は1980年代の2つの研究に主に基づいており、その後の確認研究がない、と述べています[11]。ただし確認された偽陰性は79例中4件にとどまっており、差がないことを積極的に示すだけの規模ではないことには注意が要ります[11]。
そして、欧州の水疱性類天疱瘡ガイドラインは、解剖学的な部位について何も述べていません[3]。「下腿を避ける」はガイドラインの推奨ではなく、臨床の中で受け継がれてきた見方だということになります。もっとも総説には、体幹と前腕の屈側が一般に好まれる、という記述が今も残っています[7]。部位選好そのものが消えたわけではありません。
表3 5つの決定と、その根拠の強さ
| 何が推奨されているか | 誰がそう言っているか | 根拠の強さ | |
|---|---|---|---|
| 生検の必要性 | 診断確定に必須 | 国内の両ガイドラインが明記 | 一致して明記 |
| HE用の採り方 | BPでは紅斑上の早期水疱。天疱瘡では24時間以内の小水疱、または水疱辺縁1/3+周囲2/3 | 欧州の各ガイドライン | 疾患群で異なる |
| DIF用の採取部位 | 水疱の縁から3〜10 mm離れた非水疱部(3つの記述が重なる範囲) | 欧州はコンセンサス文書。国内は二択のみ、または記載なし | 推奨はあるが、直接比べた報告の結論が割れている |
| 血清と、その提出時期 | 抗デスモグレイン抗体・抗BP180抗体を、DIFと併せて提出 | 国内ガイドラインが併施の必要性を明記 | 一致して明記 |
| 陰性のときの次の一手 | 再生検と技術的問題の確認。その先に診断を受け入れる条件 | 欧州の水疱性類天疱瘡ガイドライン | 明記あり |
注:ここでいう「根拠の強さ」は、その手順を守らなくてよいかどうかではなく、記述がどれだけ一致しているかを示しています。[1][2][3][4][5][6][7][9][10][11]
この表を縦に見ると、5つの決定は根拠の強さがそれぞれ違います。しかし横に見ると、揺れているのは「DIF用の採取部位」の一点に集中しています。
もう一度、どこから採るか
ここまで見てくると、部位について確かなことは多くありません。ただし、それは「どこから採ってもよい」という意味でも、「採らなくてよい」という意味でもありません。冒頭に置いた出発点を、根拠の性質を踏まえたうえでもう一度示します。
- DIF用は、水疱の縁から3〜10 mm離れた非水疱部から採る。下限を示しているのは総説だけだが、その範囲はガイドラインが示す上限の内側に収まる[3][4][7]
- 水疱の中心部からは採らない。総説が避けるとしているのも、活動性の水疱の中心部と、一度も病変が生じていない遠隔部位である[7]
- 国内の診断基準は、病変部と外見上正常な部位のいずれも認めている。どちらかでなければならないという指定はない[1]
- 解剖学的な部位を理由に、採取そのものを見送らない。ほかに病変があれば体幹などを選んでよいが、下腿にしか病変がなければ下腿から採る[9][10][11]
最後の一点は、冒頭の患者さんへの答えでもあります。下腿しか病変がないことは、採取を先延ばしにする理由になりません。ただし、下腿だけに病変がとどまるということは限局型である可能性を含みます。限局型ではDIFの診断的な有用性が相対的に低いという報告があることは[10]、結果を読むときに織り込んでおきたいところです。有用性が相対的に低いことは、採らない理由にはなりません。陰性となる可能性を見込んだうえで採る、ということです。部位を変えるのではなく、陰性だった場合の段取りを先に用意しておく——それが実際的な備えになります。
血清は何を答え、何を答えないか
国内で出せる検査と、その要件
国内では、抗デスモグレイン1抗体、抗デスモグレイン3抗体、抗BP180-NC16a抗体、およびこれら3項目の同時測定が保険収載されています[15]。
ここに、少し意外な非対称性があります。抗デスモグレイン3抗体および抗デスモグレイン1抗体については、鑑別診断目的での算定対象が「厚生労働省難治性疾患政策研究事業研究班による『天疱瘡診断基準』により、天疱瘡が強く疑われる患者」と限定されています。一方、抗BP180-NC16a抗体にはこの限定がなく、水疱性類天疱瘡の鑑別診断または経過観察中の治療効果判定を目的として測定した場合に算定できる、とだけ規定されています[16]。3項目の同時測定についても、天疱瘡の鑑別診断を目的とする場合には同じ限定がかかります[16]。
天疱瘡側には診断基準というゲートが置かれ、類天疱瘡側には置かれていません。先ほど見た診断基準の記述の粒度の違いと、同じ向きに並んでいるのが興味深いところです。
陰性でも否定しない
血清学的検査が陰性だったとき、水疱症を否定してよいかという問いには、国内のガイドラインが直接答えています。
……これらのELISA(CLEIA)法の感度は100%ではないため,症例の見落としを避けるために蛍光抗体直接法を併せて実施する必要がある.また,可能な場合は蛍光抗体間接法も併せて実施することが望ましい.
(強調は投稿者)[2]
数値の裏づけも見ておきます。単施設で水疱性類天疱瘡313例と対照488例を後ろ向きに比較した研究では、蛍光抗体直接法の感度が90.8%、特異度が98%でした。一方、蛍光抗体間接法と各ELISAを合わせた血清学的検査全体の感度は88.8%です[17]。
ここは読み方が分かれるところです。蛍光抗体直接法は単独で最も感度が高いものの、血清学的検査の総和はそれに肉薄しています。差は2ポイントほどです。だからこそこの研究も、水疱性類天疱瘡が疑われる場合には血清学的検査と蛍光抗体直接法の両方を行う必要がある、と結論しています[17]。どちらかを選ぶ話ではありません。
なお、これは単施設で集められた症例と対照を比べた後ろ向き研究です。水疱症が疑われる患者さんの割合が異なる国内の一般外来で、同じ数値がそのまま当てはまるとは限りません。
表皮下水疱症を対象とした系統的レビューとメタアナリシスも、蛍光抗体直接法が診断の基準であり続けており、ELISAはこれを置き換えるものではなく補完するもの――低侵襲であることから、とくに経過観察の道具として――と結論しています[18]。ただしその射程は表皮下水疱症にとどまり、天疱瘡群は含まれていません。
同じ受診回で揃える
以上から、実務としては3つを同じ受診回で揃えることになります。血清だけ後日に回すと、患者さんにもう一度来ていただくことになり、しかも結果の解釈は3つが揃うまで確定しません。
国内での検査の依頼先についても、一度整理しておきます。同じ受診回で揃えるのは、先に見た保険収載の3項目のことです。免疫ブロット法などの特殊な検査は、これとは別の段取りになります。特殊な血清学的検査――蛍光抗体間接法、各種ELISA、免疫ブロット法など――を受託している施設のひとつである久留米大学医学部皮膚科学教室は、依頼の案内で、受け付けるのは血清であること、そして原則として蛍光抗体直接法で陽性所見が得られている患者さんの検体を対象とすることを示しています。ただし、蛍光抗体直接法が陰性でも自己免疫性水疱症が疑わしい症例や、血清学的検査を急ぐ場合には、この限りではないとも記されています[19]。
少なくともこの案内を読むかぎり、蛍光抗体直接法は依頼元で済ませておくことが前提になっています。「専門施設へ送る」という言い方の中身は、蛍光抗体直接法そのものではなく、その先の血清学的検査だということです。
粘膜では、皮膚の結論をそのまま持ち込めない
粘膜については、皮膚で言われていることをそのまま持ち込めません。
口腔
蛍光抗体直接法が陽性だった粘膜類天疱瘡251例と尋常性天疱瘡(pemphigus vulgaris: PV)77例を後ろ向きに解析した報告があります。病変周囲からの生検と、正常な頬粘膜からのpunch生検を比べたところ、検体あたりの陽性割合は、粘膜類天疱瘡で93.7%対89.6%でした。両方の手技を受けた48例に限って感度を比べると81%対77%で、有意差はありませんでした(p = 0.62)。尋常性天疱瘡では98%対100%です。この報告の結論は、尋常性天疱瘡と、複数部位に病変のある粘膜類天疱瘡については正常頬粘膜からのpunch生検が病変周囲の生検と同等である、というものです[20]。
先ほど触れた系統的レビュー2本も、この領域のものです。一方は、口腔の尋常性天疱瘡では病変周囲が、粘膜類天疱瘡では正常に見える粘膜が最適だとしています[13]。他方は、歯肉に症状を有する症例を対象に、採取した口腔粘膜の性状は陽性率に影響しないと結論しています。ただし後者も、検体は活動性病変にできるだけ近い健常部から採るべきだと条件を付けており、さらに同じ論文の追加の解析では、粘膜類天疱瘡において生検した粘膜の外観と陽性率に有意な関連が認められた、とも報告されています[14]。
粘膜類天疱瘡については、複数の検体を同時に、あるいは経時的に採ることで診断の収率が上がりうるとされています[12]。ただしこれは粘膜類天疱瘡についての話です。水疱性類天疱瘡では単一の病変周囲生検で通常十分とする報告があることは、先に触れたとおりです[5]。複数検体をどの疾患にも一般化することはできません。
眼
粘膜類天疱瘡のガイドラインは、眼型が疑われる場合について、両眼の炎症が最も少ない球結膜と、頬粘膜または皮膚という別の部位から検体を採ることを示しています[12]。
ただし、結膜生検については国内の眼科領域から、陽性率が低いこと、そして生検そのものが病状を進行させうることが指摘されています[21]。
したがって本稿の立場を明示しておきます。眼病変については、生検の適否を含めて眼科と連携して判断してください。本稿は眼病変への生検を勧めるものではありません。
陰性だったら、どこで止まるか
蛍光抗体直接法が陰性だったとき、どこまで進んで、どこで止まるのか。ここにも記述があります。
先に見たとおり、蛍光抗体直接法の感度は90.8%と報告されています[17]。陰性という結果は、それほど珍しいものではありません。
水疱性類天疱瘡のガイドラインは、まず再生検を行い、技術的な問題がなかったかを確認することを勧めています。そのうえで、陰性が続くわずかな患者さんについては、次の条件をもって診断を受け入れうる、としています[3]。
- 1. 示唆的な臨床像: 緊満性の水疱がある
- 2. 矛盾しない病理組織所見: 表皮下の裂隙を認める
- 3. 蛍光抗体間接法での所見: 1M食塩水で剝離させた皮膚を用いた検査で、表皮側に結合する循環IgG自己抗体を認める
- 4. 血清反応性: ELISAまたは蛍光抗体間接法で、BP180および/またはBP230への反応を認める
原文では3と4が「and/or」で結ばれており、両方が揃わなければならないわけではありません[3]。1M食塩水で剝離させた皮膚を用いた蛍光抗体間接法をすぐには出せない施設でも、診断が止まらない書き方になっています。
疱疹状皮膚炎のガイドラインは、偽陰性が生じる技術的な理由として、検体の提出方法に関わる要因と、適切でない生検手技を例示しています[8]。再生検に進む前に、提出の手順と採取部位のそれぞれを一度見直しておきたいところです。
そして、この記述で重要なのは条件の中身よりも、その構造だと思われます。再生検を経てもなお陰性が続く場合について、診断を受け入れる条件が置かれています。つまり、陰性が続くことは、検査を無限に重ねる理由にはなりません。どこかで臨床像と組織像と血清所見を統合して判断する、という終着点が用意されています。
逆方向の歯止めも忘れないでおきたいところです。血清が陰性であることは、水疱症を否定する根拠になりません[2]。
出す前に確認したいポイント
ここまでの内容を踏まえ、検体を出す前に確認しておきたい点を並べます。
- 生検の必要性――診断確定に必須の手順として位置づけたか
- HE用の採り方――新しい水疱そのものから、疑っている疾患群に応じた形で採ったか
- DIF用の採取部位――水疱の縁から3〜10 mm離れた非水疱部から、別の検体として採ったか
- 血清と、その提出時期――同じ受診回で採ったか
- 陰性のときの次の一手――陰性だった場合の段取りを見込んでいるか
これらはルーチンとして並べる項目ではなく、ひとつずつが、採り直しを避けるための確認になります。
おわりに
「病変の周りから採って」という一行を辿ってみると、国内の診断基準はそもそも部位を指定する種類の文書ではなく、欧州のガイドラインはコンセンサスとして推奨を示し、直接比べた報告の結論は割れていました。それでも、示されている数字が重なる範囲を採ると決めてしまえば、迷う幅はかなり狭くなります。生検が診断確定に必須であることと、血清を併せて出すことについても、記述はよく一致していました。
根拠を辿ることは、その手順を疑うためではありません。どこが動かせて、どこが動かせないのかを知ることで、目の前の患者さんの条件に合わせて動く余地が見えてきます。下腿にしか病変がない患者さんに対して、部位を理由に採取を先延ばしにしないでいられるのは、その余地を知っているからです。
自分が当然として行っている手順のうち、出所を辿ったことがあるものは、どれくらいあるでしょうか。検体の採り方は、その問いを立てやすい題材なのかもしれません。
ここまでお読みいただきありがとうございます。この記事が皆様の今後のお役に立てれば幸いです。それでは。
余白ノート
「病変周囲」という言葉を、これまで疑わずに使っていました。しかし調べていくと、その中身は1〜2 cm、1 cm以内、3〜10 mmと、参照する文献ごとに違っていました。総説の著者自身が、この距離は恣意的に引かれることがあると書いているのを読んだときには、少し不思議な気持ちになりました。
ひとつの言葉を共有しているつもりで、実際には少しずつ違うものを指していたのかもしれません。カンファレンスで「周りから採りました」と言うとき、聞いている側が思い浮かべている範囲と、自分が採った範囲は、どのくらい重なっているのでしょうか。手技の言葉が持つ曖昧さは、こういうところに潜んでいるように思います。
参考文献
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- 類天疱瘡(後天性表皮水疱症を含む)診療ガイドライン作成委員会(氏家英之,岩田浩明,山上淳ほか). 類天疱瘡(後天性表皮水疱症を含む)診療ガイドライン. 日本皮膚科学会雑誌. 2017;127(7):1483-1521. doi:10.14924/dermatol.127.1483
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