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アレルギー性薬疹と非アレルギー性薬疹をどう考えるか ― 化学療法中の皮疹を前にして

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化学療法施行中の方に皮膚症状が出現したとき、診察依頼を頂くことがよくあります。一般的に言われる「薬疹」が考慮されるとき、私は診察室で一瞬立ち止まってしまいます。これは「薬疹」か、化学療法に伴う皮膚障害かと。
診察依頼を頂く際には、化学療法によるものでしょうか?と聞かれることも多く、無意識的に「薬疹」と化学療法皮膚障害を鑑別しなければと思うことが多かったのですが、その試みに臨床的意義はあったのかと振り返ると即答できず、今回記事にまとめようと考えました。

いわゆる薬疹と化学療法皮膚障害


上で触れた「薬疹」とは、私が便宜的にそう呼んでいるだけで正確なものではありません。多形紅斑型や播種状丘疹型のアレルギー性薬疹を指していますが、一般的に「薬疹」と聞くと、多くの方がこのような皮疹を思い浮かべるのではないでしょうか。
粘膜症状や多形紅斑を認める際には重症薬疹の恐れもあり、注意が必要となります。
化学療法に伴う皮膚障害は、上では非アレルギー機序によるものを指しています。チロシンキナーゼ阻害薬による手足症候群など原因薬剤と病型がわかりやすいものもありますが、様々な病型を取り得ます。
摂取した薬剤またはその代謝物により発疹を生ずるものを薬疹とするならば、私の疑問はアレルギー性薬疹と非アレルギー性薬疹の鑑別をつける臨床的な意義は何かということになります。

アレルギー性薬疹と非アレルギー性薬疹を
鑑別する意義


さて、それでは両者を鑑別する意義とは何なのでしょうか。臨床現場での行動を考えてみましょう。これはまず両者の鑑別以前に2パターンに分けられます。①重症薬疹を示唆する兆候を認める場合 と ②そうでない場合 です。
①重症薬疹を示唆する兆候を認める場合は想定される重症度は高くなりますが、以降の行動はわかりやすいです。可能な限り被疑薬を中止し、皮膚生検を施行して入院でのステロイド全身投与が検討されます。つまりは重症薬疹前提の対処となります。
今回問題となるのは②の場合でしょう。②の場合は重症薬疹は積極的には疑われません。アレルギー性にしろ非アレルギー性にしろ、おそらく薬疹だろうと考えたならばまずはステロイド外用をするのではないでしょうか。この時点ではアレルギー性か、非アレルギー性かと悩むことはあったとしても、治療内容に大きな違いはないはずです。それでは両者を鑑別することに意義はないのでしょうか?ここが私を悩ませたポイントです。今であれば意義はあるだろうと答えます。以下に3点、両者を鑑別する意義をまとめました。

1、フォローの仕方が異なる
2、悪化した際に疑う病態が異なる
3、被疑薬への態度が変わる

1、フォローの仕方が異なる
被疑薬摂取のタイミングにもよりますが、アレルギー性であれば比較的重症化リスクが高いと考えられます。重症化リスクが高いので頻繁にフォローする、という選択をとる理由が出てきます。逆に非アレルギー性ならば比較的長めにフォロー期間を設定しやすくなります。

2、悪化した際に疑う病態が異なる
アレルギー性だろうと考えた時には悪化した際に、時間経過によって症状があらわになってきたと考慮しやすくなります。悪化が判明した時点で薬疹として生検やステロイド内服といった判断に繋がりやすいはずです。非アレルギー性を考慮していたらどうでしょうか。被疑薬の再考や他疾患の再考をしやすくなり、正確な診断に繋がり得ます。

3、被疑薬への態度が変わる
アレルギー性を疑うのであれば、症状は被疑薬に対して用量非依存的に出現するはずです。被疑薬中止へのモチベーションはより高くなり、再投与は強く禁じられるでしょう。非アレルギー性であれば被疑薬に対して症状は用量依存的に出現することが想定されます。化学療法であれば減量しつつ落とし所を探るような戦略も取り得ます。

表.アレルギー性薬疹と非アレルギー性薬疹の特徴

アレルギー性薬疹非アレルギー性薬疹
用量依存性一般に 用量非依存(閾値を超えれば少量でも生じうる)用量依存または累積量・
薬理効果に伴うことが多い
発症のタイミング投薬後 遅延することあり(数日〜数週)投与後 比較的早期(数日以内〜用量増加後)が多い
全身症状の有無発熱・倦怠感・臓器障害など全身症状を伴う場合がある通常皮膚症状にとどまり、
全身症状は乏しい
反応の仕方免疫系による反応主に薬物の薬理作用・毒性に基づく反応
臨床的行動への影響再投与で再燃しやすい
重症化懸念で頻繁なフォロー
原因薬調整や支持療法を
中心に対応可

鑑別の意義は「その後の方針」が変わり得ること

診察時の重症度が低い場合、アレルギー性薬疹か非アレルギー性薬疹かを考えることはその場での治療内容選択にはあまり寄与しません。しかし、その後の対処では差が出てきます。想定する重症度が異なるためフォロー間隔や、重症化した際の病態の予測が変わり得ます。再投与への考え方も変わってくるでしょう。
私が無意識に鑑別を考慮していたのは、その後の方針に影響を与えるからだったのだろうと今になって思います。こうして言語化したことで、より適切に鑑別の意識を向けることができそうです。
ここまでご拝読ありがとうございます。この記事が皆様の今後に役立てれば幸いです。それでは。

余白ノート

化学療法施行中の紅斑、よくあるシチュエーションではないでしょうか。今までは重症でないと確認できたらなんとなくステロイド外用し、なんとなくよくなっていたのですがこれでいいのかといつも不安がありました。今回の記事で思考をまとめたことで、今後は同じ経過フォローでも、不安を抱えながらの経過観察ではなく、自分なりに納得した上での経過フォローにできそうです。

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皮膚科専攻医の思考ノート
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皮膚科専攻医。日々の診療と学習で生じた疑問を、臨床で使える形に整理して記録しています。皮膚科初学者〜専攻医の「つまずきやすいポイント」を中心に、思考過程と学びを共有します。
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